金融市場NOW
ポジション調整と円高の進行状況および量的緩和について
2008年12月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
金融危機を背景とした投資家のリスク回避から、日米の投資家を中心としたリパトリエーション(投資資金の自国回帰)が進行し円やドルの高値推移が続いているとの観測があります。また、投機筋のポジション調整も円高の一要因に挙げられているようです。今回は、ポジション調整の進行状況等を中心に分析してみました。
グラフ1:投機筋のポジション調整とドル/円

投機筋のポジションは2007年夏場までは、円売りに偏重していましたが、それ以降はポジション調整が進行し、それに伴い円高が進行しました。現在の同円売りポジションの調整は解消し、むしろ円買いポジションが優勢になっています。少なくとも、このデータからは更なるポジション調整による円高の可能性が限定的であることが読み取れそうです。
グラフ2:日本の投資信託を通じた個人の対外債券投資額増減

投資信託を通じた日本の個人の対外債券投資額はピーク時の4853億円買い越しから、足元は8246億円の大幅売り越しとなり、リパトリエーションの証左となったようです。また、これは円高圧力の一要因となったようです。但し、過去を見ると日本と海外の金利差を背景に、同売り越しが恒常化したことはありません。別の言い方をするとポジション調整やリパトリエーションが、いつまでも円高や相場の主要テーマであり続けることはないということです。
グラフ3:米国投資家の対外証券投資動向

グラフ3は米国投資家の対外証券投資動向です。米国投資家は、リスク回避姿勢から投資資金を米国内に回帰させており、リパトリエーション、ドル高進行の証左となっています。但し、過去の例からも明らかなように、リパトリエーションは短期間で収束し、永続的な性格を持っていないことがわかります。リパトリエーション進行中はファンダメンタルズに非整合的な相場展開にもなりますが、収束後の為替相場は中長期的に見て、金利差や景気格差等に整合的な相場つきに回帰するものと考えます。
円実効レートは1980年以降、平均約7年程度の間隔で1年移動平均(※)からの乖離幅が10%を越えて円高が進行する局面が見られます。過去においては、その乖離幅10%台(グラフ4:四角囲い部分)は円高が反発するゾーンとなっているようです。現在も既にそのゾーン内に突入しています(グラフ4参照)。足元の相場のキードライバーはリスク回避を背景としたポジション調整・リパトリエーションであると前述しましたが、リスク性資産の代表である豪ドルはこれを反映するように、対円で大幅に下落しています。但し、こちらでも4年移動平均からの豪ドル/円の乖離幅が反発ゾーン(グラフ5:四角囲い部分)に突入していることには注意が必要です。この傾向はファンダメンタルズ等では説明できない相場のアノマリー(相場特有の癖のようなもの)であり、為替相場ではひとつの注目材料にされています(グラフ5参照)。
グラフ4:円実効レート1年移動平均からの乖離幅

(注)相場の値動きを平準化し傾向を抽出した値
グラフ5:豪ドル/円4年移動平均からの乖離幅

グラフ6:量的緩和実施に至る経過月数(日米比較)

(※)現金+中央銀行へ預け入れる銀行の準備預金
円高の収束にはポジション調整の収束が必須であり、更に言うと、その最大の誘引である金融危機の収束が必須です。現在の金融危機の回復経路を、日本の失われた10年の踏襲と考える向きもあるようです。しかし、米国と日本の金融危機への対応は量的緩和実施に至る期間の差からも歴然とした違いがあります。米国は株価のピークからたった11ヶ月で量的緩和を実施しましたが、日本は約11年かかっています。この差は金融危機収束の期間短縮化につながるのかもしれません。
金融市場動向
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