金融市場NOW
円の全面高について
2008年11月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
「円高懸念の共有」が盛り込まれた2000年1月の東京G7(財務相・中央銀行総裁会議)の声明以降、はじめてG7で円高をけん制する異例の緊急共同声明(10/27)が発表されました。このため、にわかに介入警戒感が台頭し始めました。ちなみに2000年9月には日米欧協調介入も実施されています。これに加え、主要国による公的資金注入や流動性供給等の金融安定化策が発表されたことを受けて円高の勢いは足元、後退しています。今回はこの点に焦点を当ててみたいと思います。
グラフ(1)金融危機局面における円実効レートの推移

円は金融危機局面で高くなる特性がある通貨と考えられています。グラフ(1)は過去の金融危機が起きた日の円実効レートを100として指数化し、その後の約1年間の円実効レートの推移ですが、いずれの局面でも円高に振れる傾向が見られます。
グラフ(2)円実効レートの変動と政府・日銀の円売り介入額

現在の円高は、そのスピード、規模ともに過去最高水準に到達しています。過去は全て当該水準で政府・日銀の円売り介入が実施されています。直近のG7で円の過度の変動から、協調介入を視野に入れた姿勢をにじませたのは整合的と見られます。日銀の介入の特徴は「巨額かつ長期」という特徴があり、また、少なくともその実施についてG7諸国のお墨付きをもらっているという点には注意が必要です。
グラフ(3)米政策金利とドルLibor金利

円は金融危機局面で高くなる特性のある通貨であると、前述しました。つまり、現在の円高の収束条件の一つは、金融危機の改善が挙げられます。金融危機の状況を判断する指標の一つにLibor金利(ロンドン銀行間出し手金利)があります。これは銀行同士の資金の調達金利です。一時はこのドルLibor金利が信用収縮から高騰し、円はこれに連れて急騰していました。しかし、米国の流動性供給・金融安定化策の効果が徐々に浸透し始めた模様であり、ドルLibor金利は正常化に向かいつつあります。円高の勢いもこれに連れ後退しています。
グラフ(4)米銀行株指数と米国株

今回の金融危機の側面の一つには、銀行の資本不足が挙げられます。このことを改善するために、10月中旬に米国政府は公的資金の資本注入策・金融安定化策を発表しました。これ以前、米国株(S&P500)は銀行株の下落に先導されて下落していましたが、金融安定化策発表後には銀行株とS&P500の値動きに乖離が見られるようになりました。金融危機の象徴である銀行株が少なくとも、急落しなくなったのは変化の兆しかもしれません。このこともあり、円は反落しています。
グラフ(5)投資家が考える債務不履行環境

(注)CDS: 社債等が債務不履行になった場合に債務を負う企業に代り、支払いを保証するデリバティブ
グラフ(5)は社債等の債務不履行に対する、5年物の社債保証コスト(保険料のようなもの)が10年物よりも高くなった異常な状態を表しています。このような長短保証コストの逆転は近く、債務不履行が発生するリスクが、将来先々よりも高いとの投資家の認識を表しています。このことも金融危機の状況を判断する材料の一つです。足元は依然、高水準ながらもこれがピークアウトしており、円もこれに連れて反落しています。
グラフ(6)インプライドボラティリティと円実効レート

金融危機局面は、投資家の恐怖心を増幅し、時に合理的でない行動を後押しします。このような局面では、投資家の先行きに対する相場変動の見込みが大きくなるため、金利差が無視され、ある意味ファンダメンタルズに整合的でない相場つきになります。この状況を判断する材料にインプライドボラティリティがあります。足元、これがピークアウトしており、パニック的な円高は収束したようにも見えます。
金融市場動向
関連記事
- 2025年02月20日号
- 機械学習の手法を活用しシクリカル株に投資(前編)
- 2025年01月23日号
- 成長性を評価する定量指標(1)
- 2025年01月17日号
- 【アナリストの眼】データが導くヘルスケアのイノベーション
- 2024年12月13日号
- 【アナリストの眼】食品企業の挑戦:インフレ継続をチャンスに変えられるか
- 2024年11月18日号
- 【アナリストの眼】KDDIがローソンと挑む「ソーシャル・インパクト」は、株主の期待に応えられるか?
「金融市場動向」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。