金融市場NOW

コモディティ価格と金融・経済の関係

2008年09月01日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

高騰を続けていた原油を中心としたコモディティ価格は7月初旬の高値をピークに足元、反落しています。原油を中心としたコモディティ価格の高騰は、世界最大の原油消費国である米国をはじめ、先進国の景気や為替市場、経常収支にも影響を及ぼします。今回はこの点に焦点を当ててみます。

(グラフ1)ドル実効指数とコモディティ価格指数

出所:ブルームバーグ

ドルと原油価格に代表されるコモディティ価格は、おおむね逆相関で推移してきました。2007年以降はインフレ高進に伴い、この関係が強まり、いわゆるインフレ・トレード(ドル売り/コモディティ買い)が活発に行われた模様です。米国は世界最大の原油消費国・輸入国ということもあり、同国の景気は、原油価格の動向に敏感に影響を受けます。例えば、原油価格の高騰は輸入物価の上昇を招き、家計の実質購買力を低下させ、GDPの約7割を占める個人消費の下押し圧力となります。このため、原油高騰に伴う米景気減速観測からドルが売られるとの見方が両者の逆相関関係の背景にはあるようです。

(グラフ2)原油価格と米国の交易条件

出所:ブルームバーグ

原油を初めとする一次産品価格の高騰は、交易条件(※)の悪化を通じ企業収益の減速要因になります。実際、2007年以降の原油急騰を受けて交易条件は大幅に悪化しました。圧迫された企業収益環境を受け、企業の価格転嫁の動きが観測されています。

  • 交易条件… 輸出物価/輸入物価 1単位の輸出品で何単位の輸入品と交換できるかを示す指標

(グラフ3)世界の経常収支バランス

出所:IMF
(注)2008年はIMF見通しベース(2008年4月時点)

原油価格が高騰すると、世界最大の原油輸入国である米国の原油輸入金額が名目ベースで増加するため、短期的には、米国の経常収支赤字の拡大要因となります。このため、ドルに下落圧力がかかるとの見方もあります。近年の原油価格の高騰に伴い中東産油国の原油輸出が増加し、同地域の経常収支の黒字幅拡大につながっています。現在は、米国の経常収支赤字が中東と中国の黒字によってファイナンス(埋め合わせ)されていると見ることもできます。

(グラフ4)米国実質GDPと原油価格対前年比

出所:ブルームバーグ

原油価格は世界最大の原油消費国である米国の景気動向に連動し推移してきました。特に、米景気が0近傍成長となった過去の2局面(グラフ4、囲い部分参照)では顕著です。今後、米国景気が低迷するとのマーケットコンセンサスが具現化した場合、原油の需要減が予想されます。その場合、ファンダメンタルズ面からは、原油価格だけが一人歩きし、高騰してゆく可能性は低いと考えています。

原油価格の高騰を演出した要因の一つに、米国を中心とした大幅な金融緩和によって引き起こされたカネ余り状態が挙げられます。この有り余ったオカネは高い収益を求め、原油に代表されるコモディティ市場に流入したという見方です。コモディティ価格の高騰が収束したかどうかを判断するためには、大量の流動性供給環境が転換したことを確認することも必要だと思います。 グラフ5は金融環境が引締的であるのか緩和的であるのかを判断する分析手法の一つである、マネタリー・コンディション・インデックス(MCI)と原油価格の推移です。これを見ると、現在の米国の金融環境は大幅に緩和的であり、依然として大量の流動性を供給しているように見えます。 また、グラフ6はオカネの供給(M2(※)で代替)が実体経済(鉱工業生産指数の伸び率で代替)比でどれほどの水準であるのかを示すグラフと原油価格のチャートです。こちらで見ても、実体経済の伸びを上回るオカネが供給されている環境に大きな変化は見られません。当面はコモディティ市場の先行きを占う上で、カネ余り環境の動向から目が離せません。

  • M2…通貨供給量の代表的指標

(グラフ5)MCIと原油価格

出所:ブルームバーグ

(グラフ6)米欧の流動性供給状況と原油価格

出所:ブルームバーグ

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