金融市場NOW
インフレの現状
2008年07月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
4月中旬に開催された7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の声明で「インフレ懸念」が表明されたことに続き、6月中旬のG8財務相会合の共同声明でも「エネルギー価格をはじめとするコモディティ価格の上昇が世界の安定成長に重大な試練を提起している」との懸念が表明されました。今回は世界経済が直面する最大のリスクになる可能性のあるインフレの現状について焦点を当ててみたいと思います。
地域別消費者物価

先進国企業は、安価な労働力や輸送費に着目し、アジアやエマージング諸国に生産拠点を置き、コスト面でのメリットを享受し、製品価格を低く抑えてきました。これがインフレ抑制に寄与しました。しかし、2006年以降、アジアやエマージング諸国の物価が急激に上昇しはじめたこともあり、今までの低コストを利用したメリットの構造は変化し始めた模様です。
国別賃金水準 ニューヨーク=100として指数化

先進国企業は、ここ10年間で国際間のアウトソーシング(外注)を活発化してきました。例えば米国企業が賃金コストの格差からインドに業務のアウトソーシングを行うというものです。この経済効果は企業のコストダウンを通じてインフレを抑制してきました。ただし、足元、外注受注元であるエマージング諸国の賃金が急速に上昇し、この構造が変化し始めました。
米国生産者物価中間財(※)

- 最終生産物を生産するために使用された原材料や半製品・燃料のこと
エネルギー価格やコモディティ価格の高騰に加え、前述の、エマージング諸国を介在した低コストメリットの構造変化等もあり、企業はコスト増を価格に転嫁する方向に向き始めたようです。投入コストの上昇圧力は、食品とエネルギーだけに限定されたものではないようです。その証拠に、食品・エネルギーを除いた中間財コア指数も上昇しています。企業の価格転嫁が今後も続くのか要注意です。
米フィラデルフィア連銀支払い・受け取り価格指数

インフレ動向のひとつの目安となる、米フィラデルフィア連銀の製造業者支払い価格指数は、エネルギーはじめコモディティ価格の上昇を受け、1980年以来の高水準を示現しました。また、受け取り価格指数も上昇しており、企業が現在の高コストを価格に転嫁し始めた兆候が伺えます。
米国消費者物価指数と平均賃金

前述した通り、エマージング諸国の賃金は急速に上昇していますが、一方で、米国に代表される先進国の賃金はむしろ、頭打ちしています。このため、先進国ではインフレが加速する可能性は低いとの見方もあります。実際、今局面は、過去と比較しても、賃金が低下する中、消費者物価が上昇する異例な局面となっています。
米国失業率と消費者物価指数

米国は、スタグフレーション(低成長下でインフレが続く状態)に突入したとの議論があります。過去スタグフレーション環境になったのは、網掛け部分です。70年代のそれは、第一次オイルショックによる原油高騰が背景にあり、今局面に似ているとの見方があるようです。過去は原油価格高騰を受け、景気が後退し、石油消費抑制が起き、原油価格が下がるという、インフレの自動修正メカニズムが働いてきましたが今局面もそうなるのでしょうか。要注目です。
金融市場動向
関連記事
- 2025年02月20日号
- 機械学習の手法を活用しシクリカル株に投資(前編)
- 2025年01月23日号
- 成長性を評価する定量指標(1)
- 2025年01月17日号
- 【アナリストの眼】データが導くヘルスケアのイノベーション
- 2024年12月13日号
- 【アナリストの眼】食品企業の挑戦:インフレ継続をチャンスに変えられるか
- 2024年11月18日号
- 【アナリストの眼】KDDIがローソンと挑む「ソーシャル・インパクト」は、株主の期待に応えられるか?
「金融市場動向」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。