金融市場NOW

G7声明から読み取れること

2008年05月01日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が現地4月11日米国ワシントンで開催され、「為替相場の急激な変動が経済の先行きや金融市場の安定化に与える影響に強い懸念を示す」声明を発表しました。また、インフレ圧力にも強い懸念が表明されています。その後もFRB(米連邦準備制度理事会)理事からG7声明と同主旨のコメントが相次いでいます。これは、G7声明が市場に正しく評価され、浸透するのを意図しているかのようです。今回は、同声明の捉え方と、金融市場に及ぼす影響について考えてみたいと思います。

今回のG7声明文の最大のポイントは、2004年2月G7以降維持され続けてきた図表(1)の緑字部分の表現が削除され、新たに、図表(1)緑字部分の表現が加えられた点です。実に4年ぶりの表現変更ということになります。また、声明文の中に、図表(1)の「懸念」という強い表現が使われたのは、1999年の円高局面とユーロ安が加速していた2000年9月のG7(図表(3))以来となります。1999年はG7前後に日銀の断続的円売り介入がありました(図表(2))。また、2000年はG7の前日に、ECB、米、日、加中央銀行の協調ユーロ買い介入が行われていました(図表(3)参照)。このことから考えても、今回の「懸念」という表現を含む声明は、ドル安に対してのG7当局の警戒姿勢の強さが現れているようです。

図表(1):今回のG7声明と過去のG7声明の比較

  声明文内容
2008年4月G7 前回の会合以降、主要通貨において時として急激な変動があり、我々はこれらが経済及び金融の安定へ与える影響について懸念」している。我々は引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力する。
2004年2月G7 我々は、為替レートは経済ファンダメンタルズを反映すべきであることを再確認。為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済成長にとって望ましくない。我々は、引き続き為替市場をよく注視し、適切に協力していく。
2000年9月G7 最近のユーロの動向の世界経済に与える影響に関し蔵相、中央銀行総裁は「懸念」を共有しているため、ECB(欧州中央銀行)主導で米、日、英、加の金融当局は為替市場においてECBと協調介入を行った。最近の動向に関して為替市場の動向を注視し、適切に協力してゆくことで合意した。
1999年9月G7 我々は、為替・金融市場の動向について議論した。我々は、日本経済及び世界経済に対する円高の潜在的な影響についての日本の「懸念」を共有した。我々は、この潜在的な影響を考慮しつつ政策が適切に運営されるという日本当局によるインディケーションを歓迎した。我々は引き続き為替市場の動向を注視し、適切に協力していく。

図表(2):ドル買い介入額とドル/円

出所:ブルームバーグ

図表(3):ユーロ/ドルとG7声明

出所:ブルームバーグ

バーナンキFRB議長はじめ、同理事が相次いで「過度の金融緩和状態」と「インフレ圧力」に警戒を表明しています(図表(4))。通常インフレ抑制には図表(5)の四角囲い部分のように金融引き締めが実施されます。このため、金利面からドルが上昇し、インフレ抑制をサポートします。しかし、現在はインフレ圧力が強まる中で金融緩和が実施され、かつ、ドル安が進んでおり、図表(5)の丸囲い部分と同じく異例な事態となっています。このまま金融緩和や更なるドル安が進行すると、FRBの理事が懸念するようにインフレ上昇を助長させることになりかねません。図表(5)の丸囲い部分の1995年当時はこれを回避する目的もあり、米国通貨当局はドル買い介入を実施しています。今局面でも、G7がインフレ懸念とドル安懸念を表明しています。また、バーナンキFRB議長が懸念するように、インフレを考慮した現在の実質政策金利はマイナス域に達しており、充分な金融緩和状態にあります。これを反映してか、市場には米国の金融緩和は最終局面に近いとの見方が出てきました。ちなみに、過去の実質政策金利のマイナス化は、その後の株価上昇の契機となったと見る向きがあります(図表(6))。

図表(4):G7声明及び米FRB理事の発言

バーナンキFRB議長 「実質政策金利が長期間マイナス域に留まることは得策でない。」
4/11:G7声明 「インフレに対する強い懸念を共有。主要通貨の急激な変動が経済及び金融の安定へ与える影響について懸念している。」
4/16:米フィラデルフィア連銀プロッサー総裁 「インフレは懸念材料だ。過度に緩和的な金融政策が長引けば、インフレ圧力が高まる」「現在の金融政策は緩和的だと思う。」
4/15:ウォーシュFRB理事 「インフレの状況を注意深く監視している。当局の流動性供給は市場の緊張を緩和した。」「限度以上の利下げを求めるべきでない。」

図表(5):ドル実効レートと政策金利

図表(6):実質政策金利と米国株

出所:ブルームバーグ、 米国株式=S&P500

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