金融市場NOW
金融危機・リスク回避環境における為替の考え方
2008年04月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
- 本号から月刊になりました。
米国の大手証券会社への緊急資金支援の発表があり、このことが米国の信用危機の深刻さを更に際立たせ、ドルは全通貨に対し下げ幅を拡大しました。その一方で、円は、全通貨に対して、ほぼ全面高の展開が続いています。通常、このような想定外の金融危機局面に際して、投資家は最悪の状況を想定し、パニックに陥り、極端なリスク回避行動を採るのが常です。為替市場では現在、この投資行動を反映した展開が進行中と思われます。今回は、今局面のような金融危機・リスク回避環境における為替の考え方について紹介します。
G10通貨の対円騰落率

サブプライム問題が台頭した昨年夏場から3月中旬までのG10通貨の対円騰落率はスイスフランが唯一のプラスである以外は円の全面高となりました。G10通貨中、最低の金利水準にあるスイスと日本の通貨が全通貨に対して高いパフォーマンスを挙げていますが、その背景を探りたいと思います。
各国の経常収支の対GDP比と実質政策金利

一般的に、為替を動かす2大フローは、貿易と資本フローと考えられています。現在のように投資家のリスク回避が強まる局面では、証券投資など資本フローが停滞するため、貿易フローの為替への影響度が高まります。このため、図表の、より右上に位置する国の通貨、つまり、経常収支が黒字、かつ実質金利が、より高い国の通貨が選好されやすくなる訳です。この観点でG10通貨の対円騰落率を見るとスイスフランが上昇し、経常収支赤字国である米ドル、英ポンドが下落する理由がわかります。
各国の経常収支(ドルベース)と実質政策金利

金額ベース(ドル)での経常収支では、G10通貨国の中で日本が最大です。リスク回避姿勢が強まり、資本フローが停滞する局面では、実質金利の高低よりも、金額ベースの経常収支の大小が為替の動向に、より影響を与える要因になります。このため、円高が進んでいる訳です。
主要国の貯蓄・投資バランス

リスク回避姿勢が強まり、非居住者による対内投資フローが停滞すると、主要国の中で最も困る国は米国といえます。なぜなら、下図のように、米国は貯蓄<投資の体質だからです。極端な言い方をすると、借金をしなければ、投資が行えない状況ということです。逆に、対内投資フローが停滞しても困らないのは貯蓄>投資の国。具体的には日本、カナダといえます。これも金融危機局面で円が選好される理由かもしれません。
2月19日にお届けした前号の「金融市場NOW」で米国のポリシーミックス(注参照)から導かれる通貨の方向はドル安であるとの見方を紹介しました。当時のドル/円は108円台でしたが、その後、一時は95円台にドルが下落しました。現在も当該ポリシーミックスからのドル安の枠組みに変化はありません。ただし、更なるドル急落局面は米国のインフレ懸念を高め、また、輸出立国である日・欧の景気後退懸念を高めることになるため、三国の利害がドル安抑制で一致する可能性(協調介入等)を視野に入れておくことが必要かもしれません。また、金融危機・リスク回避姿勢が緩和された場合においては、世界最低の金利水準である円が強くなる整合性はなくなることも要注意です。
注:ポリシーミックスとは?
減税などの財政政策や金融緩和、また通貨政策の3つの政策(ポリシー)を駆使して期待される経済効果を目指す枠組みのことを「ポリシーミックス」といいます。現在の米国のポリシーミックスは図表のケース4に該当すると考えられます。2月13日の景気対策関連法案の成立をもって景気刺激型のポリシーミックスが採択されていることが明確化しました。
財政・金融・通貨政策の組み合わせ
財政政策 | 金融政策 | 通貨の方向性 | 経済効果 | |
---|---|---|---|---|
ケース1 | 緊縮 | 引き締め | ドル高 | 景気過熱回避 |
ケース2 | 緊縮 | 緩和 | ドル安 | 財政赤字削減/経常黒字拡大 |
ケース3 | 緩和 | 引き締め | ドル高 | 財政赤字拡大/経常赤字拡大 |
ケース4 | 緩和 | 緩和 | ドル安 | 景気刺激 |
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