金融市場NOW

米国景気は減速する環境なのか?

2007年12月14日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

サブプライム問題を契機に、米金融機関の収益が悪化し、株価が軟調に推移する中、米国経済の減速観測が高まっています。今回は、マクロ経済的観点から、巷で言われる「米国経済減速観測」を検証してみたいと思います。

サブプライム問題の影響を受け、米国の銀行や証券会社等、金融部門の収益が予想外に悪化しています。このため、市場では信用収縮を介在した景気の減速を見込む向きが増加している模様です。確かに足元、短期的には金融セクター株の動向に米国株(S&P500)は連動を強めていますが、長期的、かつ大局的な視野に立つと、異なる絵が見えてきます。企業利益全体に占める金融部門利益の割合(38%)は、同非金融部門の割合(62%)よりも少なく、かつS&P500との連動性を見ても、非金融部門利益の方が大きいことがわかります。金融部門は今後も不冴えな環境が続くかもしれませんが、サブプライム問題から、より遠いセクターの株も下落し、米国経済の減速の足を引っ張るとは考えにくいと思います。

企業利益全体に占める非金融・金融部門利益の割合

出所:ブルームバーグ

非金融・金融部門利益と株価

出所:ブルームバーグ

GDPに対する企業利益とGDP成長率

出所:ブルームバーグ

GDPに対する企業利益は史上、最高水準を記録しています。GDP成長率との連動性の高さを考慮すると、米国経済の減速観測に整合性があるのか再考する必要性があるようにも見えます。

企業のキャッシュフロー(※)と設備投資

出所:ブルームバーグ
  • キャッシュフロー: 企業活動によって実際に得られた収入から外部への支出を差し引いて手元に残るキャッシュの流れのこと。

米企業は総体的にキャッシュリッチな状態にあり、このことは借り入れなしの、手元キャッシュフローだけで設備投資が行なえる環境に近いということです。このことは潜在的な企業活動の活発化につながり、経済や株価の支持要因と考えられます。

ソ連崩壊を契機とした冷戦構造の終焉により、米国では、国防に費やされていた資金が民間に還流可能となり、その恩恵を受け長期金利が低下しやすい環境が形成されました。また、この環境変化に歩調を合わせて株価も上昇しています。当時、もともと軍の技術であったインターネットなどの技術や人材が民間に流れ、結果、急激に労働生産性が向上しました。このため、人件費を中心にインフレが低く抑えられ、金利は低下し、企業の利潤が高まったものと考えられています。現在でもこの金利が上昇しにくい環境は継続しており、このことは景気や株にとっての支持要因と考えられます。

米長期金利と国防費の対GDP比

出所:ブルームバーグ

米株価と国防費の対GDP比

出所:ブルームバーグ

実質長期金利と実質GDP成長率

出所:ブルームバーグ

2003年以降続く、実質長期金利が実質GDP成長率を下回った状態は、歴史的に見ても稀な緩和的金融環境であり、経済にとっては支援的な状況です。

ドル実効レートと米国輸出額

出所:ブルームバーグ

2003年以降、貿易加重ドル実効レートが減価しています。このことは、経済的には米国の「国際競争力の向上」を通して、輸出の増加を促します。このことも、経済にとってはプラスの側面といえます。

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