金融市場NOW

米国利下げの環境を探る

2007年09月14日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

米国のサブプライム危機は信用リスクの問題から、現在は流動性の問題として危機が拡大しています。例えば、銀行間同士の資金調達市場では、流動性が枯渇した危機的状況になっています。これに対応し、米連邦準備理事会(FRB)は8月17日に2001年9月の米国同時多発テロ以来、約6年振りに緊急利下げを実施し、市場に流動性を供給する強い姿勢を示しました。
しかし、引き下げられたのは政策金利であるFFレートではなく、公定歩合でした。通常、公定歩合は誰からもお金を借りることができなくなった民間銀行等が、最後の貸し手である中央銀行からお金を借りる時のレートです。このため、実際には公定歩合での民間銀行の債務は、ほぼ皆無であり、FFレートでの債務がほとんどなのです。 このように形骸化した公定歩合の引き下げは、アナウンスメント効果こそあれ、流動性危機を収束させる直接的な効果は限定的と考えられています。このため、市場参加者はFFレートの大幅引き下げを織り込み始めました。今回の「金融市場NOW」では、過去にFFレートの引き下げがあった時の経済環境と現在の環境とを比較し、利下げの可能性を探ってみました。

政策金利の適正水準を算出する計量モデルの代表であるマンキューモデル(※1)およびテイラールールモデル(※2)によると現在の政策金利はやや高く、市場が見込む年内0.5%程度の利下げは整合的に見えます。

  1. 2003年米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長、現ハーバード大教授による計量モデル。
  2. 中立実質FFレート+コア消費者物価指数+0.5×インフレギャップ+0.5×GDPギャップで算出されるレートが政策金利の適正水準とする理論。GDPギャップを計算する際の潜在成長率は同10年移動平均を使用。 インフレギャップを計算する際のインフレ目標は2%と仮定。 中立実質FFレートは2%と仮定。

マンキューモデルによる適正政策金利

出所:ブルームバーグ

テイラールールモデルによる適正政策金利

出所:ブルームバーグ

雇用統計とFFレート

出所:Bureau of Labor Statistics FRB

過去の利下げは非農業部門の雇用者数が「0」を下回ったタイミングで実施されています。8月の同指数は4000人の減少であり、利下げの経済環境の一つに整合的になりました。

ISM(全米供給管理協会景気指数)とFFレート

出所:Institute for Supply Management FRB

過去の利下げはISM指数が景気の分岐点である50を下回ったタイミングで実施されています。同指数は8月末で52.9であり、早急な利下げを示唆していません。

小売売り上げ高とFFレート

出所:U.S. Census Bureau

過去の利下げは小売売り上げ高が6%を下回ったタイミングで実施されています。同指数は昨年9月以降、6%以下に停滞しており、利下げを正当化する状態です。

設備稼働率とFFレート

出所:Federal Reserve

過去の利下げは設備稼働率が2%以上低下したタイミングで実施されています。同指数は81%台の高水準を維持しており利下げを示唆していません。

生産者物価中間財コアとFFレート

出所:Bureau of Labor Statistics FRB

過去の利下げの開始時点は生産者物価中間財コアの山とタイミングが合っています。同指数は昨年8月にピークを打ち、低下傾向になっています。同指数だけを見れば利下げに整合的な環境といえます。

GDPに対する米企業利益の割合とFFレート

出所:ブルームバーグ FRB

過去の利下げは名目GDPに対する米国企業の割合が急速に低下するタイミングで実施されてきました。同指数は現在、市場最高水準にあり、利下げを示唆していません。

FFレート-3ヶ月物短期国債利回り格差(スプレッド)

出所:ブルームバーグ

過去FFレートの緊急利下げが実施された時はいずれもFFレートと3ヶ月物短期国債の利回り格差が急上昇(経済環境に対して政策金利が高い)しています。現在はリスク性資産からの資金が安全資産の代表である、短期国債に急激にシフトしており、スプレッドが急拡大しています。この異常事態を収束させるためには、FFレートの引き下げが整合的に見えます。

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