金融市場NOW

サブプライム問題の深化はレバレッジとCDO(債務担保証券)が主導

2007年08月31日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

米国の証券会社ベアスターンズ傘下のヘッジファンドがサブプライムローンを組み込んだCDO(債務担保証券)への投資で巨額の損失を出し、経営難に陥りました。サブプライム問題の第一段階は住宅ローン専門会社の破綻でしたが、現在は第二段階で、リスクを正しく評価しなかった同ヘッジファンドのような投資家の破綻です。投資家が保有するCDOの時価残高が現在は開示されていないため、市場は疑心暗鬼になり信用収縮懸念すら台頭しています。ただ、全ての投資家や金融機関が不健全な投資を行なっていたわけではないため、不健全な投資家の全体像が見えてくるタイミングで、サブプライム問題もピークをむかえることになるのでしょう。今回は、サブプライム問題を深化させたCDOを中心に分析してみたいと思います。

CDOとは?また問題の本質は?

サブプライムローンは多くの場合ABS(資産担保証券)に証券化されます。その格付けはBBB格が大勢を占めます。同格付けのままでは、多くの投資家の資金を集めることはできません。そこで、ABS組成者はCDOという手法を使い、同格付けを高めることを通して、投資家から多くの資金を集めているのです。
CDOを簡単に言うと、担保となるローン債権毎に支払い優先順位や保証を付けることにより、ローンのリスクを再評価し、AAA(シニア)~格付無し(メザニン)に区分した上で、それらを束ねて証券化することです。そうして、組成者は証券化されたABS CDOを銀行やヘッジファンド等の投資家に売却します。ヘッジファンド等は、収益向上を図るために、ABS CDO等を担保にした資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)を通して、外部資金を調達し、少ない元本で数倍~数十倍の資産の運用を行なっていました。このことを専門用語でレバレッジを高めるといいます。 CDO投資を通じたサブプライム問題の本質はここにあったのです。
レバレッジを高めた投資は、住宅価格が上昇し、返済が順調であれば問題はないのですが、現在は、サブプライム問題の拡大から、レバレッジを使ったスキームが急激に逆回転を始めました。つまり、担保資産の価格下落に加えて、資金調達時の担保資産の掛け目が悪化したことにより、保有資産を売却しないと資金繰りが困難な状態となってしまったわけです。資産を売却したくても、ABS CDOの流動性は高くないうえに、時価評価の基準となる適正価格が不透明であり、売却ができなくなっています。
現在は、投資銀行等の金融機関が保有するABS CDO残高が時価ベースで開示されていないこともあり、市場は疑心暗鬼となり、ABS CDOを担保に資金調達する資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)市場での金利が急騰し、資金調達が困難になり信用収縮懸念が台頭しています。以下の図表はCDOのスキームイメージ図です。ご参考ください。

サブプライム問題がなぜ短期資金調達市場の流動性枯渇につながったのか?

ヘッジファンド等の投資家や金融機関は、わずかな投資金額で大きなリターンを挙げようとして、CDOなどを担保にした資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)を通じて資金調達を行い、レバレッジを高めていました。ただし、CDOの値崩れが始まった以降は、同信用創造スキームが逆回転し、資金調達が困難になり、返済が滞ることになりました。この動きを受けて、市場はパニックになり、サブプライム等のモーゲージとは無関係な分野でも調達金利が急騰しました。このため、コマーシャルペーパー市場では、健全な企業の短期資金調達が困難になる異常事態となりました。コマーシャルペーパーの発行額は、この余波から足許、急減しています。 金融機関同士の短期資金の貸し借りをする際の金利であるLIBOR金利も急騰し、信用収縮懸念が台頭しています。流動性の状況を見るひとつの指標である、TEDスプレッド(LIBOR3ヶ月金利と米国3ヶ月国債利回りの格差)は一時、ブラックマンデー以来の水準にまで上昇しました。
この危機的状態に対処するためFRB(連邦準備制度理事会)は公定歩合の緊急利下げを行ない、市場に流動性の供給を行ないました。これが奏功し、現在のTEDスプレッドは急速に縮小し、市場は一旦落ち着きを取り戻した模様です。 過去、FRBが、緊急利下げを実施したのは、ブラックマンデー(1987年)、LTCM破綻(1998年)、米国同時多発テロ(2001年)時ですが、いずれの場合でも、緊急利下げ後は、市場の流動性懸念が収束に向かっています。 今局面においても、FRBは混乱収束に向けた流動性の供給に強い姿勢を見せています。健全な投資主体の資金調達ができないような信用収縮危機を回避するためには、不健全な投資をした金融機関の全容(CDOの保有残高等)を時価ベースで開示し、利下げを含む、流動性を供給し続けることで現在のような市場のパニック状態は収束に向かうのでしょう。言うまでもありませんが、利下げは株式市場や債券市場にとってプラスの要因です。雨降って地固まるのでしょうか。

コマーシャルペーパー(CP)の週間発行額

出所:ブルームバーグ

流動性枯渇の状況:TEDスプレッド

出所:ブルームバーグ

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