金融市場NOW

サブプライム問題の現状と分析

2007年07月20日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

信用力の低い層を対象とした住宅ローンであるサブプライムローンの返済遅延率の上昇問題が予想外の拡大を見せ、住宅ローン専門会社や大手証券会社傘下のヘッジファンドの経営問題に発展しています。今回は、サブプライム問題の本質を検証してみたいと思います。

サブプライムローンの規模

現在、米国の住宅ローン残高は約10兆ドルで、その約1割強がサブプライムローンとされています。2006年に新規に実行されたローン全体に占めるサブプライムの比率は約20%、0.6兆ドル規模でしかありません。一方、信用力の高い層を対象とした住宅ローンであるプライムローンは同約50%、1.5兆ドルと全体の大半を占めています。

2006年の米国住宅ローン実行額

出所:米インサイド モーゲージ ファイナンス

非農業部門雇用数とプライムローン延滞率

出所:Mortgage Bankers Association

異例な環境で上昇するサブプライムローン遅延率

非農業部門雇用数とサブプライムローン延滞率

出所:Mortgage Bankers Association

通常、住宅ローンの返済が遅延する背景には、雇用・所得環境の悪化が挙げられます。現在の米国は、雇用環境も所得環境も堅調なのですが、サブプライムローンの返済遅延率のみが上昇しています。また住宅ローン金利も80年代の18%台をピークに現在は6.65%に低下しており、全米全体の所得階層の最下位20%に該当するサブプライムローンの借り手を除くと、現在の環境は、住宅市場にとって、むしろ好意的な方向にあります。その証拠にプライムローンの返済遅延率はここ10年ほどの平均の2.5%程度で変化していません。

全体のローン市場は平静を維持(1)

商業銀行の各ローンの返済遅延率

出所:FRB

サブプライムローンの返済遅延率は確かに上昇していますが、全米の商業銀行が保有するローンセクター全体の返済遅延率を見ると、低位で安定していることが見てとれます。サブプライムローンを含む住宅ローンセクターでさえ、横ばい推移となっています。このことはサブプライムローン問題が局地的な問題であり、マクロ経済全体に波及する問題ではない証左といえそうです。

全体のローン市場は平静を維持(2)

商業銀行の総貸付に占める不良債権の比率

出所:FRB

全米の商業銀行の総貸出しに占める不良債権の比率は、低位安定しており、サブプライム問題が、80年代に見られたクレジットクランチ(金融の貸し渋り)に発展する可能性は低いと見られます。また、2000年代のハイテクバブル崩壊時との比較からも、サブプライム問題のマクロ経済全体に及ぼす震度は限定的と見られます。

ローンの貸し出し基準はモーゲージローン以外緩和

銀行シニアオフィサーのローン貸し出しサーベイ

出所:FRB

サブプライム問題の影響を受けて、モーゲージローンの貸し出し基準は急激に厳格化されています。一方、他のローン(企業向けローンやクレジットカードローン)の貸し出し基準はむしろ緩和傾向にあります。過去の金融危機局面(緑枠部分)では、全てのローンの貸し出し基準が厳格化されていたことを考慮すると、サブプライムローン問題がマクロ経済全体に波及し、クレジットクランチを引き起こす可能性は低いと考えてよさそうです。

市場から撤退を余儀なくされたのは、一部住宅ローン専門会社と一部投資家のみ

サブプライムローンの最大の問題点は、住宅ローン専門会社の甘い融資審査と、サブプライムのモーゲージ証券に傾斜した一部ヘッジファンドのリスク審査の甘さです。実際、ニューセンチュリー社(破綻)に代表される住宅ローン専門会社は2006年初頭から既に約30社が市場から撤退を余儀なくされています。また、ベアスターンズ証券傘下の同市場に特化したヘッジファンドも市場からの撤退を余儀なくされました。これらの主体は潜在的に同種の危機を抱え続けるのかもしれませんが、不健全な主体が自然淘汰されるのは金融市場の健全性を高めることになるでしょう。その他の主体である金融機関は、担保価値のもともと低いサブプライムローン向け貸付に傾斜していないこと、また、住宅ローン事業の減収を他の部門の大幅増収が上回っており、大きな混乱は見られません(ご参考を参照)。メリルリンチの4-6月期決算は、住宅ローン事業の減収を他事業の増収が有り余り、補い、前年同期比+31%拡大しています。サブプライムローンの借り手は確かに、サギまがいの営業もあり、被害を被った主体かもしれませんが、同主体の所得階層は全米で最下位の20%層に該当しており、消費全体に及ぼすマイナス効果は軽微なものと推測されます。

サブプライムローンを巡るマネーフロー

ご参考:米大手銀行の1-3月決算

銀行名 純利益
JPモルガン・チェース 48億ドル(+55%)
バンク・オブ・アメリカ 53億ドル(+5%)
ワコビア 23億ドル(+33%)
ウェルズファーゴ 22億ドル(+11%)

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