金融市場NOW

金利の低位安定、株価上昇の背景

2007年06月26日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

世界の金融市場は今、バラ色の時を謳歌しているようです。つまり、世界の長期金利は低水準で安定、欧米株式市場は史上最高値を更新、日本株式市場も7年来の高値に接近という具合です。この環境の背景には何があるのでしょうか?当該レポートでは、そのメカニズムにスポットライトを当ててみたいと思います。

過剰流動性が金利低下に寄与?

機軸通貨ドルの過剰流動性と長期金利

出所:FRB
ワールドダラー:米国のマネタリーベース+外国中央銀行保有の米財務省証券

過剰流動性とは、簡単に言うと経済成長の規模を上回って通貨が流通する、いわば「金余り」状態です。別な言い方をすれば実質的な金融緩和状態ともいえます。現在は世界的な金融引き締め下にも関わらず、長期金利が低位安定しているのは、過剰流動性の影響があるのかもしれません。下図を見ると、機軸通貨であるドルの流通規模が米国の成長規模を上回るペースで増加し(過剰流動性)、これに伴い長期金利が低位安定していることがわかります。

国際化の恩恵 世界の賃金格差が価格上昇を抑える

世界の賃金水準 ニューヨーク=100

出所:UBS 2006年のニューヨークの賃金を100とした場合の各国の賃金

世界の企業のアウトソーシング(外注)が、国際間で活発化しています。例えば米国企業が賃金コストの格差からインドに業務のアウトソーシングを行うというものです。この経済効果は企業のコストダウンを通じてインフレを抑制し、長期金利上昇を牽制することにつながります。国際的アウトソーシングが始まったのはここ数年であり、今後も更なる活性化が見込まれ、ます。長期金利上昇抑制の環境は続きそうです。

企業のキャッシュリッチが株価を支える

S&P500と米国企業の純キャッシシュフロー (※)

出所:ブルームバーグ
  • 企業活動によって実際に得られた収入から外部への支出を差し引いて手元に残るキャッシュの流れのこと。

アウトソーシングによる企業のコストダウンが企業収益の向上につながるメカニズムを構築したことや、リストラおよびバランスシートの改善から企業はキャッシュリッチ(現金等の手元流動性が高い状態)です。この経済効果はM&Aや自社株買いの活発化を促し、株価の上昇を支持します。米国企業のキャッシュフローは史上最高水準に達しています。ハイテクバブルの局面を除きキャッシュフローとS&P500は高い連動性を持って推移しています。

キャッシュリッチにより企業の設備投資潜在能力は高い

キャッシュフローに占める設備投資の割合

出所:FRB 日銀

日米企業ともキャッシュリッチな状態にあり、キャッシュフローに占める設備投資の割合は日米共に100%を下回っています。このことは言い換えると、借り入れなしで、手元のキャッシュだけで設備投資が行なえる環境にあるということです。このことは潜在的な企業活動の活発化につながり、株価の支持要因と考えられます。

M&Aの活発化が株価に寄与

企業の潤沢なキャッシュフローを元手に現在はM&Aがブームとなっています。2003年以降の世界の株価上昇の背景にはM&Aの活発化があるようです。世界で最もM&Aが活発に行われているのは米国ですが、同国でのM&A案件の発表が株価にとってプラスに評価された実例を紹介してみたいと思います。5/18に米国のマイクロソフト社によるオンライン広告会社のアクアンティブ社の買収(約60億ドル)が報道されアクアンティブ社の株は急上昇しています。

世界のM&A総額と世界の株式指数

出所:ブルームバーグ MSCI

M&Aの発表による該当企業の株価上昇例

出所:ブルームバーグ

外貨準備も過剰流動性の供給源?

原油価格の高騰を背景としたロシアなどの原油売り上げ収入増や、自国通貨高を回避するためのドル買い介入で中国をはじめとするアジア諸国の外貨準備高が急激に積み上がっています。中国などはこの大量に積み上がった外貨準備を米国債などに投資し、資本還流を通じて過剰流動性を市場に供給しています。また原油の決済を通じた、通称オイルマネーと呼ばれる莫大な過剰流動性が世界に供給され、長期金利を低下させ株価を上昇させる要因のひとつになっているようです。ちなみに世界の外貨準備高は2007年6月時点で史上最高水準の5兆ドルに膨張しています。また、世界のGDP成長率に占める世界の外貨準備高の割合は年々増加しており、今後も大きな潮流となる可能性があります。

世界の外貨準備高と外貨準備高上位5カ国の推移

出所:IMF

世界のGDP成長率に占める世界の外貨準備高比率

出所:IMF

世界の株価指数は外貨準備高の増加に歩調を合わせ上昇

世界の外貨準備高と世界の株価指数

出所:MSCI ブルームバーグ

世界の外貨準備の伸びが加速した2003年以降、世界に過剰流動性が莫大に供給されました。このマネーは投資先を求めて世界の株式市場に流れ込み、株価の上昇に寄与した模様です。

まとめ

  • 過剰流動性(金余り)は金利の低位安定、株価上昇に寄与
  • アウトソーシングはインフレ抑制効果を通し、長期金利上昇を牽制
  • 企業がキャッシュリッチな状況はM&A、自社株買等を通して株価にプラス寄与
  • 外貨準備の増加も世界に過剰流動性を供給

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