吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.52
注目のDOEを用いた投資戦略の効果(2)

2024年02月13日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 配当利回りはDOE(自己資本配当率)とPBR(株価純資産倍率)に分解して表現できる。
  • DOEと配当利回りの2つの指標で銘柄選別する戦略は、より一層有効性が高まると期待される。

今号では、前号に続いて企業の株主還元の度合いを測る指標として注目が集まっているDOE(Dividend on Equity Ratio:自己資本配当率、配当額÷自己資本)をテーマに取り上げます。前号では、“DOEが4%以上”を基準として用いた投資戦略は、長期的に見れば有効性が高いことを示しました。じっくりと長期的な投資を行うならば、この条件だけで効果が期待できるでしょう。ただし、足元など、短期的にはこの戦略の銘柄選択効果が厳しい場面も見られます。今号では、同様に配当をベースとした伝統的な指標の配当利回りと合わせて用いると、効果がより高まることを解説していきます。

まず、DOEと配当利回りのそれぞれの戦略のパフォーマンスを観察します。検証期間は2023年12月まで、過去10年間を月次サイクルで検証します。2013年12月末から、毎月末にユニバースであるTOPIX(東証株価指数)構成銘柄の中から、東洋経済新報社が提供する今期予想配当額を用いて“DOEが4%以上”と“配当利回りが3%以上”の銘柄をそれぞれ抽出します。こうして選んだそれぞれの銘柄群に等金額投資したポートフォリオの翌月のリターンを求め、ユニバース全体に等金額投資した場合のリターンを引いて超過部分を計算します。検証期間のエンドとなる2023年12月まで、2014年以降の超過リターンを毎月累積した推移を観察していきます。

図表1:DOEが高い銘柄と配当利回りが高い銘柄の累積超過リターン

  • ・分析期間は2014年1月から2023年12月まで。分析ユニバースはTOPIX構成銘柄を対象(ただし、今期予想配当額が取得できない銘柄と債務超過にある自己資本がマイナスの銘柄は除く)。
  • ・「DOEが4%以上」、「配当利回りが3%以上」、「PBRが1倍割れ」は、毎月末時点で対象銘柄のうち、今期予想DOEが4%以上の銘柄、今期予想配当利回りが3%以上の銘柄、PBRが1倍割れの銘柄に、それぞれ等金額投資したリターンから、同月のユニバース全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求め、2014年1月から累積。
  • 出所:東京証券取引所と東洋経済新報社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

分析結果を図表1に示しました。“DOEが4%以上”と“配当利回りが3%以上”の累積超過リターンのグラフは、ともに右肩上がりとなっています。これらの戦略は長期的に見ると銘柄選択効果が高いことが分かります。ただし、前号でも指摘した通り、2021年以降、“DOEが4%以上”のグラフは横這っており銘柄選択効果が低下しています(図表1の青色の矢印)。一方、“配当利回りが3%以上”のパフォーマンスは足元にかけても順調です(図表1の赤色の矢印)。直近の2年間、DOEを用いた投資戦略は厳しかったものの、配当利回りを用いた投資戦略は有効でした。この背景には、足元の市場ではバリュー株の効果が強かったことがあげられます。図表1には“PBR(株価純資産倍率)が1倍割れ”、つまり株価が企業の純資産価値(会計上の清算価値)を下回る銘柄に投資した場合の累積超過リターンも示しています。“PBRが1倍割れ”のグラフは、DOEの有効性が低下し始めた2021年以降、一転して上昇しており、バリュー指標の代表であるPBRの有効性が高まっていることが見て取れます。ここで、配当利回りの効果とPBRの効果との関係について、下式を使って整理しましょう。配当利回りは、1株当たり配当金÷株価ですが、企業全体で見ると(企業が株主に支払う)配当額÷時価総額となります。

\[ 配当利回り=\frac{配当額}{株式時価総額} = \frac{自己資本}{株式時価総額} × \frac{配当額}{自己資本} = PBRの逆数 × DOE \]

したがって、配当利回りはPBRとDOEの2つの指標に分解して表すことができます。配当利回りの効果が高まった背景は、低PBR効果が高まるか、あるいはDOE効果が高まるか、の2つの効果に分解できるのです。シンプルに配当利回りの指標を用いることで、2つの指標の効果を同時に享受できるとも言えます。しかしながら、近年、企業の株主還元強化を目標とする資本政策において、DOEの目標水準を設定する企業が増えつつあります。これまでと異なり、配当利回りの指標を単独で用いるのではなく、DOEを銘柄選択の基準に明確な形で取り入れる手法が、銘柄選択効果が高まっていくと考えています。そこで、“DOEが4%以上で配当利回りが3%以上”と、2つの指標がともに魅力的な銘柄の投資戦略を考察します。

図表2:DOEが高くて配当利回りも高い銘柄の累積超過リターン

  • ・分析対象銘柄、分析期間は図表1と同様。「DOEが4%以上で配当利回りが3%以上」は、毎月末時点で対象銘柄のうち、今期予想DOEが4%以上かつ今期予想配当利回りが3%以上の銘柄へ等金額投資したリターンから、同月のユニバース全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求め、2014年1月から累積。
  • 出所:東京証券取引所と東洋経済新報社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

分析方法は図表1と同様です。銘柄の抽出をする際に、ユニバースであるTOPIX(東証株価指数)構成銘柄の中から、東洋経済新報社が提供する今期予想配当額を用いて“DOEが4%以上で配当利回りが3%以上”と2つの条件を満たした銘柄を抽出します。

分析結果では、“DOEが4%以上で配当利回りが3%以上”のグラフは安定して上昇する推移となりました。“DOEが4%以上”のみで銘柄選別する戦略のパフォーマンスが厳しかった2021年以降も上昇しています(図表2の矢印)。DOEと配当利回りの2つの基準を用いて銘柄選別する戦略は有効であることが示されました。実は、この2つの基準で銘柄を選ぶ戦略は、配当利回りのみで銘柄を選ぶ戦略と比べて、過去の検証では超過リターンが“大きくは”上回っていませんでした。しかしながら、今後、株式市場でDOEへの注目がより高まってくると考えられる中で、DOEと配当利回りの2つの基準を用いて銘柄選別する戦略は、より一層有効性が高まる戦略になるのではないかと期待されます。

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