吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.47
平均給与を用いた投資指標の有効性(2)
2023年06月05日号
投資工学開発部
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
- 回帰モデルにより平均年間給与を業種と年齢で調整する方法を考察。
- 平均年間給与の情報を投資尺度として用いる場合には、業種と年齢を調整することが効果的。
今号では、平均年間給与のデータを用いて、投資尺度としての有効性を高める手法を紹介します。
前号では、平均年間給与が高い企業は株式のパフォーマンスが良好であること示しました。給与が高い企業は、優秀な人材を雇うことができるほか、従業員の仕事のモチベーションも高まるなど、“人的資本”が形成されます。これが企業のサステナブルな成長につながることから、良好なパフォーマンスになったと考えられます。ただし、平均年間給与の銘側選択効果が高まったのは2018年以降であるなど、投資指標として利用する上での留意点も指摘しました。詳しくは前号を読んでいただきたいのですが、指標の効果を高めるために、平均年間給与の情報を調整する必要があることを示しました。以下で確認していきましょう。
ユニバースであるTOPIX(東証株価指数)の構成銘柄の中から、平均年間給与の上位20%までを抽出し、これらの銘柄に等金額投資したポートフォリオの超過リターンを累積したパフォーマンスが、図表の平均年間給与のグラフです。ここでは毎月末にユニバース全体に等金額投資した場合のリターンを引いて超過部分を求めて毎月累積していきます。一方、TOPIX-17シリーズの業種毎に年間平均給与が高い順に上位20%までに該当する銘柄を選んで等金額投資した場合のパフォーマンスが、業種調整した平均年間給与のグラフです。
業種調整した平均年間給与のグラフが平均年間給与のグラフをトレンドとして上回っていることから、シンプルに平均給与が上位の銘柄を選ぶよりも、業種の中で平均給与が上位の銘柄を選ぶほうが銘柄選択効果が高いことが分かりました。
さらに、業種に加えて年齢も調整した平均年間給与のグラフを示します。年齢については、企業が毎年1回公表する有価証券報告書で開示された平均年齢を用います。(数値は日本経済新聞社のデータベースから取得。)“業種と年齢を調整した平均年間給与”の具体的な算出方法は次の通りです。平均年間給与を被説明変数、業種(TOPIX-17シリーズのダミー変数)と年齢を説明変数として、以下の回帰モデルにより得られた残差項(推計値との差)を用います。なお、クロスセクション回帰モデルはユニバースを対象として、毎月行います。
但し、\(salary_{i,t}\):\(i\)銘柄の\(t\)時点での平均年間給与、\(Old_{i,t}\):\(i\)銘柄の\(t\)時点での平均年齢、業種ダミー\(_{j,i,t}\) : \(t\)時点での\(i\)銘柄の\(j\)業種ダミー(\(i\)銘柄が17業種中の\(j\)業種に該当する場合には1それ以外は0)、\(a_t\):\(t\)時点での平均年齢の回帰係数、\(c_{j,t}\):\(t\)時点での\(j\)業種ダミーに対する回帰係数、\(ε_{i,t}\):\(i\)銘柄の\(t\)時点での残差項
回帰モデルから、業種別の給与水準と年齢別の給与水準によって、それぞれの企業の“あるべきとされる年間給与”が求められます。“残差項”は実際の年間給与との差ですから、残差がプラスに大きい企業は、“あるべきとされる年間給与”よりも高い給与を支払っていると捉えられます。図表の業種と年齢を調整した平均年間給与のグラフは、この残差項が上位20%までの銘柄を抽出して、これらの銘柄に等金額投資したポートフォリオのパフォーマンスを示しています。
分析結果では、業種と年齢を調整した平均年間給与のグラフのパフォーマンスが、他の2本のグラフと比較して優位であることが示されています。平均年間給与の情報を投資尺度として用いる場合には、業種に加えて年齢も調整することが効果的であることが分かりました。
- 参考文献:人的資本と株式リターンに関する研究(国際マネジメント研究, 2023年)
- 参考URL:TOPIX-17シリーズは東京証券取引所のウエブサイト参照
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
関連記事
- 2024年04月09日号
- 取り崩し可能期間の概算について
- 2024年04月04日号
- 【アナリストの眼】「PBR1倍割れ脱却」の対話は国益に資するのか
- 2024年03月12日号
- “PBR是正要請”に対する開示企業の株価
- 2024年02月13日号
- 注目のDOEを用いた投資戦略の効果(2)
「吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。