吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.34
“年周期モメンタム”の銘柄選別効果

2022年06月02日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 年周期モメンタム現象が確認された。
  • 決算発表、季節性が年周期モメンタムの理由として考えられる。

株式市場のアノマリーの1つに「年周期モメンタム(Yearly Periodicity Momentum)」があります。1年周期モメンタムであれば、1年前の同時期の“1カ月間”に上昇した銘柄は、今年も上昇しやすい傾向があるというものです。現在、アカディアンアセットマネジメントのマルチアセット運用責任者のフィーゲルマン氏(Ilya Figelman)が、2007年に執筆した論文で明確に示したこととして知られるアノマリーです。本レポートでは年周期モメンタムを紹介します。

代表的な秋のシーズナリーストックと言えば、ゲーム株があります。毎年、9月中旬に行われる東京ゲームショウのイベントに向けて、ゲーム株に期待が集まり上昇しやすいというものです。このように毎年のイベントに向けて関連株が上昇するというのは、1年周期モメンタムの代表例として捉えやすいものです。このようなイベントにかぎらず、株式市場の銘柄全般の変動において“周期モメンタム”現象が見られます。実際に検証してみましょう。検証期間は2014年1月から2022年4月までとします。TOPIX採用銘柄を対象に、毎月末に、前年同月の1カ月間のリターンが高い(低い)順に上位20%までの銘柄に投資した場合のパフォーマンスを見ていきます。2022年3月末に銘柄を選んで4月のポートフォリオを構築するケースを使って、具体的な分析方法を説明します。

図1:2022年3月末時点における1カ月間投資(4月)のポートフォリオの選定方法

2022年3月末に、2022年4月に1カ月間投資するポートフォリオを決定します。まずは、その1年前となる2021年4月におけるユニバース(TOPIX)採用銘柄を1カ月リターンの大きい順に並べます。(図1の[A])次に、上位20%までに該当する銘柄を抽出してポートフォリオを構築します。このポートフォリオは対象銘柄への等金額投資とします。(図1の[B])

そして、2022年4月に1カ月間保有した場合のリターンを計測します。(図1の[C])このような計算を毎月同じように行い、ポートフォリオのリターンに“プラスの傾向”が見られるならば、1年周期モメンタム現象があると言えます。対照的に、2021年4月のリターンについて下位20%までに該当する銘柄を抽出してポートフォリオを構築します。(図1の[D])同様に2022年4月に1カ月間保有した場合のリターンを計測します。(図1の[E])1年周期モメンタム現象は、“昨年の同時期に上昇した銘柄が、今年も上昇しやすいと同時に、昨年の同時期に下落した銘柄が、今年も下落しやすい”というものです。従って、毎月この[E]と同様の方法で計算したリターンに“マイナスの傾向”が見られるならば、1年周期モメンタムが存在すると言えます。さらにリターンの差([C]ー[E])がプラス方向に大きいと、1年周期モメンタム現象が強いと見られます。結果を図2に示しました。ここではリターンを累積しています。

図2:1年周期モメンタム現象

  • ・分析期間は2014年1月から2022年4月まで。TOPIX採用銘柄を対象
  • 出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

(1)上位20%の銘柄群の累積リターンの推移がトレンド的に右肩上がりであること、(2)下位20%の銘柄群の累積リターンの推移がトレンド的に右肩下がりであること、そして(3)「差」の累積リターンの推移がトレンド的に右肩上がりであることから、1年周期モメンタム現象が確認できます。

さて、周期モメンタム現象に関して、さらに検証を進めてみましょう。これまで1年周期を観察してきましたが、2年(24カ月)周期、3年(36カ月)周期など、長い周期でもモメンタム現象が見られるかもしれません。あるいは、半年(6カ月)周期など短い周期も考えられます。検証は次のように行います。1年周期モメンタムのケースでは、1年前の1カ月リターン上位20%銘柄群の今年の1カ月リターンから、下位20%銘柄群の今年の1カ月リターンを除いた「差」(図1の[F])の平均値を計算します。先ほどと異なり、累積ではなく平均します。図3のグラフでは“12カ月前リターン”です。同様に1カ月前から40カ月前まで「差の平均」の計算を行います。より長期の検証結果を示すため、分析期間は2002年1月からとしました。

図3:過去のNカ月前の時点での1カ月リターンを使った投資指標の有効性

  • ・分析期間は2002年1月から2022年4月まで。TOPIX採用銘柄を対象
  • 出所:日本経済新聞社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

結果からみられる特徴的な点として、24カ月前リターン、36カ月前リターンの“プラスの傾向”が強く、2年、3年周期モメンタム現象が確認できます。また、11カ月前リターンの水準が高いことには留意しなければなりませんが、12カ月前リターンのプラス水準がある程度高い水準にあり、このことからも1年周期モメンタム現象が再確認できます。

こうした年周期のモメンタム現象の背景について、フィーゲルマン論文では決算発表が関係しているのではないかと考察しています。保守的な業績予想を行った企業は、決算発表で実際の決算が明らかとなった際、事前予想を上回りがちで、株価がポジティブサプライズとして反応する傾向があります。保守的な業績予想を公表する会社の顔ぶれは例年似通っており、同じようなサプライズで生じる株価の修正が1年周期のモメンタム現象の背景にあると考えられます。また、冒頭で触れたような毎年のイベントにかぎらず、株価変動には季節性があることも、年周期モメンタム現象の理由として考えられます。

こうした年周期モメンタム現象については、投資先の銘柄を選別する際に、1年前、2年前、3年前に対象銘柄の株価変動がどうだったのかをチェックする活用方法が考えられます。

  • 参考文献:
    Ilya Figelman, “Stock Return Momentum and Reversal” The Journal of Portfolio Management, Fall 2007, pp.51-67

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