アナリストの眼

ポストコロナ時代におけるサービス業の分析視点

掲載日:2023年12月18日

アナリスト

投資調査室 佐藤 啓吾

2023年は新型コロナウイルスの5類移行やインバウンド再開もあり、日本国内でレジャー事業を行う上場企業各社の業績は、需要回復の恩恵を受けて大きく成長した年だったと感じています。2020年に始まったコロナ禍を振り返ると、健康被害など人々の生活に深刻な影響を与えた負の側面もあった一方で、新しい生活様式への対応を促し、社会の構造や価値観に大きな変化をもたらしたとも感じております。具体的にはデジタル化が進展しEC市場の拡大が実現したことや、ビジネスの場面でもリモートワークやビデオ会議などが一般的なツールとして認められるなど、ポストコロナとも言える行動様式の変化をもたらしたと感じております。その結果、コロナ禍を契機として業績をのばしたデジタル企業も多く存在します。

しかしながら、アナリストとしては日本企業におけるデジタル化の進展余地はまだ大きく残されていると感じています。例えば、電子請求書システムの導入は23年10月に施行されたインボイス制度への対応を契機として今年大きく進んだという事実があります。請求書の発行を電子化して労働生産性を向上させるサービスを提供するクラウド事業者各社の売上高は、23年10月の数か月前から大きく拡大しています。つまり、コロナ禍でデジタル化が進展した要素はあるものの、請求書の電子化については未対応であった企業も存在していたということです。

私が担当するサービス業においては、人口減少が予想される日本において労働生産性をいかに高めていくか、人的資本の価値をいかに高めていくか、ということが一貫した経営テーマになっています。

労働生産性という観点においては、クラウド化・デジタル化を通じた業務オペレーションの効率化が必要となりますが、企業の自助努力を促すだけでなく政府の支援や法改正などの外的なアクションも重要な要素になると感じております。
また、人的資本の価値を高めるという視点では、心と体と社会という視点で充実感をもって働けるウェルビーイング経営が注目されておりますが、組織のモチベーションや社員の健康状態といった要素を可視化して改善に取り組んでいく必要があり、曖昧な領域をデジタル技術により精緻に把握をして改善をさせていくことが重要であると感じております。将来的には、財務諸表だけでなく会社組織のウェルビーイングに関する指標も開示され、各企業が時系列で改善を実現していく時代が来ることを期待しております。

これまで述べた人的資本の価値向上への対応や、業務オペレーションのデジタル化に加えて、その先のビジネスモデルの変革による新たなビジネス領域への拡大も重要です。

サービス業はいまだ成長産業ではありますが、時代への変化が常に求められるセクターであり、今年は特に自社の事業戦略の見直しを目的としたMBOや新たな顧客資産の獲得を目的としたM&Aなど、コーポレートアクションが増加しております。単一のサービスを提供し続けるだけでは、製品サービスのライフサイクルの波を超えられずに衰退していくため、経営者自らが持続的な成長に向けて戦略の転換を行うことが、特にサービス業においては企業価値を決定づける大きな要素になります。

日本のサービス業各社を見ていると、事業領域によってはサービスが出揃っており、新規サービスの創出というよりも既に存在するサービスや顧客資産を組み合わせて成長する余地がある業態もあると感じています。M&Aを通じて新たな経営資源を獲得しシナジーを出すことで成長を実現していくノウハウが今後さらに重要になると同時に、ウェルビーイング経営の推進やデジタル化を実現する力も合わせて必要とされると感じており、アナリストとしては経営者の意思決定や各企業が持つ経営資源の潜在的価値に注目度を高めて調査を継続していきたいと思います。

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