アナリストの眼

土曜日の建設現場から

掲載日:2023年11月13日

アナリスト

投資調査室 黒木 文明

建設セクターを担当するようになってから、街中で建設の現場が気になるようになりました。活況な都市再開発から戸建て住宅の建築まで街中にも沢山の現場があり、工程が進捗して姿を変えていく様は、高揚感すら覚えます。
一方で、土曜日に動いている現場が珍しくないことにも改めて気づかされます。掲示されている「今週の作業予定」看板でも週6日の作業予定が普通に記載されていて、2023年も終わりが近づいた今、いわゆる2024年問題が気になるところです。

2024年問題とは、働き方改革関連法で時間外労働の上限規制が設けられた際(注1)、実態を考慮して適用が5年間猶予されていた建設業や運送業において、猶予期間が終了する2024年に生じうる問題の総称です。
個社および業界で投入できる労働時間、すなわち施工キャパシティに与える影響はもちろん、サプライチェーンを通じて他の業界に影響が波及する可能性もありますから、アナリストとして注意深く見る必要があると考えています。実際、建設業のある企業にヒアリングしてみたところ、「自社では残業規制に既に対応済みだが、物流の残業規制で資材調達が滞り、工期に影響しないかを心配している」との話もありました。

  • 2019年4月に施行された働き方改革関連法では、時間外労働時間の上限(原則は年間360時間、特例対応でも年間720時間、自動車運転業務においては960時間。時間外労働が月に45時間超過できるのは特例でも年に6か月までなど)が設けられました。その際に、業務の特性や取引慣行を考慮して、建設業界と自動車運転業務などで適用が5年間猶予されています。

現在の対応状況ですが、日本建設業連合会(日建連)の報告書「会員企業労働時間調査報告書-2022年度-」によれば、規制上限を超過している従業員の割合は原則対応で59%、特例対応でも21%という結果で、対応が十分進んでいるとはいえません。また、「週休2日実現行動計画(注2)2022年度通期 フォローアップ報告書」においても、建築工事で4週8閉所(毎週土日は現場を閉じて休むなど)以上の現場の割合は30%強止まりで、4週5閉所未満の現場は20%強あり、現場運営の面でも残業時間削減には道半ばです。

  • 仮に週休1日で毎週月曜日から土曜日まで8時間労働をすれば8時間×6日=48時間で週8時間の時間外労働、1月4週で32時間の時間外労働となるため、時間外労働圧縮には週休2日の定着が重要とされます。

社会課題でもある長時間労働是正は重要な経営課題と認識され、対応するための十分な猶予期間もありましたが、需要が旺盛な中で、工期の長期化、施工能力低下に直結する対応には、施主・建設業者双方で必ずしも積極的ではなかったと思われます。今後インフレ傾向が定着して非ゼロ金利が定着するなら、時間の価値は高まりますから、竣工が遅れる工期の長期化にはより抵抗が強まる可能性もありそうです。

こうした状況を受けて、2023年7月に日建連から「工事現場の 4 週8閉所、週 40 時間稼働を原則とした適切な工期に基づき見積りを行い、発注者の理解を得るための説明を徹底する」とした「適正工期確保宣言」が公表されています(注3)
猶予期間の終了が迫るなか、業界をあげて発注者に理解を求めるには、足並みを揃えないことには出来上がった慣習を見直すことが難しいからでしょう。残された時間で、事業への影響を抑えつつどう対応するのか、各社の取り組みをフォローしたいと思います。

  • 同じく猶予期間が終了する物流業界でも、2023年6月に、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」の3つで構成された「物流革新に向けた政策パッケージ」が政府から発表されています。

今回とりあげた長時間労働是正は、解決すべき社会課題の一つにすぎません。2015年に設定されたSDGsは2030年が目標達成年度で、2023年は丁度中間点にあたります。SDSN(注4)によれば達成度は世界全体で67%弱にとどまり、日本は全体でこそ達成度79%強ですが17の目標のうちジェンダー平等、気候変動対策、海洋資源など5つの目標は最低評価で、一層の取り組み強化が必要な状況です。いずれの目標も従来からの慣習を見直すことが必要で、課題対応には時間を要します。
気候変動対策では、日本は温室効果ガス排出量の2030年度の削減目標を46%(2013年度対比)としており、2021年度の削減実績20%から大きく進捗させるためには、各企業において目標に沿った確実な削減が求められます。
ジェンダー平等の点では、女性活躍推進に向けて政府は「プライム市場上場企業を対象に、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指す」としています。現状水準との乖離が一朝一夕に埋まるものでもなく、各社が採用から育成、登用までを計画的に進める必要があるといえます。

  • SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)は、2012年8月、国連の潘基文事務総長が設立を発表したグローバルなネットワーク。

幸い、企業各社は社会課題解決には非常に前向きで、取り組みに関する開示も充実してきました。有価証券報告書でも「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示が2023年3月期から始まっています。統合報告書もその内容は年々充実し、社会課題解決と企業価値創造の関係がわかりやすく説明されるようになってきました。
私たち投資家は、これらによって大まかな方針や目標を確認できますので、企業の責任ある取り組み方針を理解した上で、目標達成に向けたステップの明確化など、より踏み込んだ対話を進め、確実な目標達成を促していきたいと考えます。
近い将来、土曜日に街を歩いても、建設現場の賑わいを見ることはできなくなるのかもしれませんが、持続可能な明るい未来が見えてくることを期待しております。

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