アナリストの眼

トレンドから外れる変化

掲載日:2023年10月12日

アナリスト

投資調査室 井上 渉

新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの働き方を大きく変えるものでした。これまでBCP対応の一部だったリモートワークは既に私たちの生活に欠かせないものとなり、オフィスに出社する人や出張者が減ったことで、鉄道会社や航空会社はビジネスモデルの再構築や戦略の練り直しを迫られた一方、リモートワークのインフラを提供するソフトウェア会社やインターネット会社は活況を呈しました。欧米に比べて保守的な日本では、パンデミックが起きなければリモートワークがここまで普及することはなかったと考えられ、そういう意味では新型コロナウイルスは日本に様々なインパクトを残して沈静化に向かっています。

インパクトという言葉はポジティブな面とネガティブな面の両方で用いることができますが、両者で共通しているのはこれまでのトレンドから外れる変化が起きていることです。鉄道会社も航空会社も人々の通勤通学、出張、旅行が突然なくなる事態は考えていなかったでしょうし、ソフトウェア会社にとってもここまで急速にリモートワークが広まることは想定外だったと思われます。

トレンドから外れる変化、として最近注目されているのが、生成AIです。これまで人間しかできないと考えられてきたクリエイターや士業を中心に、生成AIが仕事を奪うと言われており、特に若年層における教育方針や将来的なライフプランの再考が迫られている一方、少子高齢化に伴い先進国を中心に慢性的な労働力不足に苦しむ中で、生成AIが労働力不足解消への特効薬として期待されています。

また、既に米国で処方が開始されている肥満症治療薬も注目に値します。肥満症患者が服薬することで、脂肪吸引等の外科手術の減少といったヘルスケア領域だけでなく、食欲抑制作用があることから食料品や飲料品の需要減、搭乗客の平均体重減少による航空機の燃費改善など、様々な領域に影響が出ると言われています。特に食料品の需要減は既に表面化しつつあり、米国小売り大手の経営陣が、肥満症治療薬の普及拡大により消費者の「買い物かごの中が少し控えめだ」とコメントするなど、食品や小売りセクターを中心に業績への悪影響が懸念される一方、長年の懸案であった世界的な食糧危機を解決する一手になる可能性もあり、今後更に注目度が高まりそうです。

我々が運用するインパクトファンドは、このようなトレンドから外れる変化の胎動をいち早く掴み、世の中にポジティブなインパクトを与える可能性がある企業を投資の力で後押しすることで、株価上昇による経済的なプラスリターンのみならず、課題解決により世の中が良くなるというインパクト面のプラスリターン、この二つのリターンの両立を目指しています。また、数字で語られる経済的なリターンと同様に、投資先企業が生み出したインパクト面のプラスリターンも数値化を行い、インパクトレポートとして投資家の皆様に毎年ご報告しています。

新型コロナウイルスによるパンデミックを境にして、トレンドから外れる変化が数多く起きていることと、インパクトファンドへの注目度の高まりは、単なる偶然ではないように思えます。馬車は約4,000年ものあいだ人々の主な移動手段でしたが、約150年前に内燃機関を動力とする自動車に置き換わり、現在はモーターで走る電気自動車が取って代わろうとしています。当時は自動車の大量生産に成功したフォード社の企業価値が急速に高まるなど、パラダイムシフトが起きる際は成長企業のビジネスモデルもこれまでとは大きく異なることが予想されます。言い換えれば、混沌とする世の中で起きる大きな変化に着目することは、同時に大きな収益チャンスをもたらすものであり、その変化に着目するインパクトファンドへの注目度の高まりは、必然であると思えてなりません。

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