アナリストの眼

PBR1倍割れ企業への投資戦略

掲載日:2023年05月26日

アナリスト

投資調査室 佐竹 一仁

2023/3/31に(株)東京証券取引所より、『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について(案)』というレポートが公表されましたが、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現に向けて重要と考えられる事項について纏められており、投資家からの期待を踏まえた内容が色濃く反映されています。大枠としては、経営層が主体となって、資本コストや資本収益性を十分に意識したうえでの経営を実践してもらうという観点から、自社の「市場評価」に関しての現状分析・評価を行ったうえで、改善に向けた具体的な経営取り組みなどを計画・開示することをお願いしています。

本稿では、PBR1倍割れの企業が今後変化を迎える可能性を踏まえ、どのような投資機会があるのか考えてみたいと思います。

まず初めに、どのようなプロセスでPBRが改善するのかという点を考えます。弊社、吉野のレポートでは、単純化モデルとして日経平均株価における予想ROEとPBRの関係性について配信しており、予想ROEが8%未満の期間のPBRとの関係性はほぼ無相関である一方、8%以上の期間では、PBRとの関係に高い正の相関があることを論じています。
PBR=ROE×PERと変換できるため、相関関係があることは自然ですが、ROEが8%未満の期間はほぼ無相関ということは、投資家からどういう「市場評価」をされているということなのでしょう?

一定の資本収益性に至らない企業において、PBRとROEとの関係性が低い状況というのは、収益性が改善しても適切なバリュエーションが付与されず、必ずしもPBRの改善に繋がらないことを示しています(PERが不規則に変動することや、1株当たり純資産に対する信頼性が低いこと、などによりROEとPBRとの関係性が失われる事を指している)。これはすなわち、予想利益の安定性、又は、企業資本に対する信頼性が低いということを意味しています。
ROEは今期の資本収益性に紐付いており、PERとは市場参加者の将来利益への信頼度や期待度を示す指標ですので、PBRを引き上げるというのは、この両ベクトルを各々高めることが必要になります。

東証のレポートで示された自社の現状分析の評価観点として、資本収益性の分析においては、(1)ROIC(投下資本利益率)とWACC(株式・負債の加重平均資本コスト)との比較や、(2)ROE(自己資本利益率)と株主資本コスト(株主の要求利回り)との比較の必要性について論じられていますが、これらは「収益性に対する経営管理能力」の視える化を求めているものです。経営管理能力が改善すると、「市場評価」はPER(ここでは将来への期待度の代理変数)に伝播することを通じてPBRに反映されます。
つまり、PBRが低い企業の「市場評価(⇒企業株価)」の感応度とは、「経営層の収益に対する意識付けや、経営管理能力」の変化に起因していると、ひも解くことができるでしょう。

では続いて、どのようなプロセスでROEが改善するのかという点について触れていきたいと思います。ROEを改善するプロセスとして、ROEを分解すると、以下の数式に組み替えできます。

ROE = 当期純利益 / 売上高 × 売上高 / 総資産 × 総資産 / 株主資本

  • 当期純利益 / 売上高:利益率の改善が可能か等
  • 売上高 / 総資産:総資産回転率の改善が可能か等
  • 総資産 / 株主資本:自社株買いにより株主資本を減らすことで改善が可能か等

ROEが低い企業は上記(1)〜(3)のいずれかが低いことが多く、企業経営陣による改善施策の有無とその実効性を見ていく必要があります。

現在PBR1倍割れで、これからPBR1倍越えを目指す企業を見つけるためには、まずはROE8%以上を目指せるだけの施策があるのかを分析しつつ、「経営の質」を確認する必要があるということです。
現在の株式市場では、企業の「意識付け」に注目が集まっていますが、注意すべきなのは、今回のレポート内容に罰則規定がないことです。仮に企業側がPBR改善に資する経営行動を行わない場合でも、企業側に特段罰則はなく、株価に織り込まれた改善期待が剥落してしまう点には気を付けたいです。
最終的には、企業変化を掴む上で重視する観点は、企業経営陣とのミーティング時に伝わる覚悟や熱量です。既に述べたROEを改善する(1)~(3)の取り組みを行う場合、固定費削減・政策保有株の削減と自社株買い・設備投資の見直し等といった新たな施策が必要であり、痛みも伴います。変化を嫌う社内外の反対により頓挫することも多いですが、施策をやり通す経営陣の覚悟が重要です。

今回のレポートをきっかけに、企業価値改善に向けた取り組みを行う機会と捉え、変革する覚悟があり、ROE改善の実行力を持つ企業が増えることに期待しています。私どもは企業努力を応援しつつ、資金をお預け頂いたお客様のパフォーマンス獲得に繋げることで、企業良し、顧客良し、という結果に繋げていきたいと考えております。

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