アナリストの眼

総合商社、未曾有の好業績と資本市場の再評価余地

掲載日:2023年03月10日

アナリスト

投資調査室 醒井 周太

2020年8月に、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイによる大量保有が判明して以来、注目度が一気に上がった総合商社株であるが、その後、「オマハの賢人」の目に狂いはなかったと感嘆するような、未曽有の好業績が続いている。

2022年度は、昨年11月8日に三菱商事が、今年2月3日には三井物産が、通期の業績上方修正を発表し、ともに初の通期連結純利益1兆円超えを予想※1、またその他総合商社各社も、軒並み過去最高益水準の予想を出している。

  • 日本の会社で過去、連結純利益が1兆円超えの会社は、僅か8社(トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、三菱UFJFG、東芝、ソニーグループ、ホンダ、日本郵船、NTT)。 三菱商事は達成出来れば9社目、三井物産は10社目となる見込み。

筆者は、約20年前にも、総合商社を担当しており、「商社、冬の時代」と呼ばれた2002年当時、先ほどの両社の連結純利益は、それぞれ、622億円・311億円であった。この20年で18.5倍・34.7倍という、成功ベンチャー並みの利益増加率である。

(8058)三菱商事

  FY2002A
*時価総額02/3末
  FY2022CE
*時価総額:23/2/3
変化率
時価総額 約1兆1500億円 約6兆3300億円 約5.5倍
連結純利益 622億円 1兆1500億円 約18.5倍

(8031)三井物産

  FY2002A
*時価総額02/3末
  FY2022CE 変化率
時価総額 約9100億円 約6兆1000億円 約6.7倍
連結純利益 311億円 1兆800億円 約34.7倍

一方で、その間の時価総額の変化は、5.5倍・6.7倍と、利益の伸びに対して緩やかな状況。また、直近のPBR※2はともに1倍割れ、PER※2は5-6倍程度である(2023年2月6日現在)。ROE※2が今期16%・17-18%予想という絶好調にも関わらず、マーケットの評価は決して高いとはいえない状況が続いている。

  • PBR:Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)
    PER:Price Earnings Ratio(株価収益率)
    ROE:Return On Equity(自己資本利益率)

マーケットが積極的に評価できないのは、総合商社各社の好業績が、一時的な外的要因によるものとみていることが一番の要因であろう。具体的には、急激に進んだ円安による為替要因、サプライチェーンの混乱等を要因とした資源高(原油・ガス・石炭・鉄鉱石等)の2点である。

コロナ禍から日常が戻りつつある中、資源価格も落ち着きを見せ始め、為替も今後の見通しには意見が分かれるところにある。では、もし、これらの要因がコロナ前の状況に完全に戻った場合、総合商社のこの3年間の増益は、全て消え去るのか?総合商社株価に再評価余地は無いのか?

これを考える上でのポイントは2点と考える。(1)非資源分野の寄与と(2)株主還元である。

  1. 非資源分野の寄与:
    未曾有の好業績を牽引したのは資源分野であるが、一方で非資源分野も、既に総合商社5社ベースで利益の57%を占める等、過半を占めている※3。2013年度以降、投資の過半数を非資源分野へ投資をして来た成果が出てきている。非資源分野は相対的にボラティリティが低く、この分野の寄与が反映されていないように思う。
    • 全社業績に占める非資源分野の利益寄与度(FY2021):
      総合商社5社計57%
      住友商事79%>伊藤忠商事72%>丸紅64%>三菱商事52%>三井物産34%
  2. 株主還元:
    ほとんどの総合商社がステップアップ下限配当や累進配当と呼ばれる株主還元施策を採用しており、安定配当が示唆されている点が、投資家に安心感を与えることになると考える。過去は、単純な配当性向指針が採用されてきたことから、減益が減配に直接に繋がり、株価の下落要因となってきた。今回は、ステップアップ下限配当や累進配当が、逆に株価の下支え役になろう。

バークシャーは、昨年11月の大量保有報告書で、大手総合商社株の保有比率を引き上げたことが判明している。今回は、株価は再評価に繋がるのだろうか?

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