アナリストの眼

ビジネスモデル変革

掲載日:2022年10月19日

アナリスト

投資調査室 堀井 章

私が担当しております機械業界におけるここ数年の変化として、AIやIoTの発展を背景にビジネスモデルを変革していこうとする動きがあり、そのような企業側のコメントは統合報告書等でも頻繁にみられるようになってきました。

機械業界は、賃金のより安い新興国企業との競争に常にさらされてきたため、これまでもビジネスモデルの修正は行ってきたわけですが、それは既存のバリューチェーンの中でより付加価値の高い分野に集中するという考えに基づいたものが中心であったと思います。つまり、自社の強みを定義した上で、バリューチェーンの川上に当たる研究・開発や、川下に当たる販売・アフターサービス等をより強化し、川中にあたる生産(組立)については、自社のリソースを使用することには必ずしもこだわらず、海外移転や他社へのアウトソースを増やすといったことを行ってきました。

一方で、最近の企業の戦略では、モノからコトへの「視点の変化」も感じます。もちろん、メーカーとしてより良い品質の製品(=モノ)を社会に供給することをやめるわけではありませんし、その重要性が変わるわけでもありません。しかし、これに加えて、モノに関連するサービス等にも視点を移し、それらの組合せによりメーカーならではの独自の付加価値(=コト)を提供していくことも重要視されるようになってきていると感じます。この背景としては、やはり製品の品質やスペックのみを軸とした競争では、なかなか競合企業との差がつけられず、価格競争に陥ってしまうリスクがあるからだと考えられます。

例えば、機械装置を顧客に販売し、その後、顧客の要望に応じてメンテナンスを提供するメーカーがあるとします。そのようなメーカーでは、AIやIoTなどのデジタル技術を活用することで、装置の故障予知を行い、実際に故障する前に先回りして部品交換やメンテナンスを行うことが可能となってきています。これが可能となれば、従来バラバラであった製品の価値とアフターサービスの価値が統合され、「故障しない装置による安定生産」という新しい価値を顧客に提供できるようになります。この場合、製品保証も含めた包括的な保守契約を提供することも考えられますし、装置をメーカーが保有し、装置からのアウトプットの量に応じて顧客に従量課金を行うサブスクリプションのようなケースも考えられます。いずれにしても、従来とは異なる柔軟なビジネスの発想が活かされるようになります。

これは一例に過ぎませんが、ビジネスモデルを変革していくことで、競合企業との直接的な競争を避け、利益率の向上・維持を目指すケースが見られるようになってきています。アナリストの観点からは、その戦略自体の妥当性の評価に加えて、企業がいかにその戦略を推進する組織を整え、人財を育成・確保していくか等にも注目しています。新しいビジネルモデルに変革していく際に必要な組織や人財は、これまでのモノ中心のメーカーにおいて適切であった組織や人財とは異なる可能性があります。新しい戦略に合致した組織体制・文化、人的資本の考え方が打ち出されているかどうかで、その戦略に対する確信度は変わってきます。

また、コーポレートガバナンスの観点からは、新しいビジネスモデルへの変革を進めようとする経営陣に対して、適切なモニタリングや助言が可能な取締役会となっているかも重要でしょう。例えば、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルを模索している企業の取締役会のスキルマトリクスに「デジタル」という項目がありますと、取締役会が経営の監督においてその視点を重視していることが理解できます。

新たなビジネスモデルへの変革といった経営戦略そのものの妥当性は、外部環境等と照らし合わせて判断することは可能です。一方で、その戦略が本当に適切に執行されるかについては、組織・人財、ガバナンスの視点も重要です。経営戦略に合致した人財戦略が検討・導入されているか、適切なガバナンス体制が構築されているか等も、重要な分析視点だと考えています。

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