アナリストの眼

サステナビリティの重要性

掲載日:2022年05月16日

アナリスト

投資調査室 加藤 真二

持続可能性を意味するサステナビリティという言葉をメディアで頻繁に目にするようになりました。2030年までに持続可能でより良い社会を目指すSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉も随分浸透が進んだと感じています。サステナビリティは、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいても「中長期的な企業価値の向上に向け、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)が重要な経営課題であるとの意識が高まっている」とされ、企業が自社のサステナビリティに関する取り組みについての開示を推進することが盛り込まれました。

企業経営において、サステナビリティを意識することは大変重要で、ESGの観点で全てのステークホルダーに配慮することで、企業の中長期的な持続可能性を高めることに繋がります。それを怠ってしまうと、訴訟、座礁資産の減損等によって、思わぬところで損失が発生するリスクがあります。一方で、情報開示を通じてサステナビリティが高いと判断された企業には高い企業価値が期待できます。将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出するDCF法で考えると、サステナビリティに対する確信度が向上した場合、主に2つの点から企業価値向上が期待できます。1点目はリスクの低減によるディスカウントレートの低下が見込めるためです。2点目は、ステークホルダーとの強固な関係性を生かして長期に渡って競争優位が持続すると予想でき、長期売上高成長率や利益率等の業績予想引き上げが見込めるためです。

目まぐるしく変化する時代、環境問題への対処や適切ではないビジネス慣行等により、サステナビリティが高いとは言えない状況となり、ビジネスモデルの転換が必要となる場合があると思います。そのような場合、どのように取り組めばよいのでしょうか。再生可能エネルギーを手掛ける、ある欧州企業の例を紹介します。同社は、2000年代後半、石油・天然ガス等、化石燃料に依存していました。特に、石炭火力発電で多くのCO₂を排出していることに対して批判的な世論が増えつつあり、同社はこのままCO₂を排出し続けることは持続可能ではないと判断し、再生可能エネルギーへのシフトを決定しました。戦略変更後は経営資源を集中させ始め、途中、化石燃料事業の業績が悪化したこともあり、従業員と危機感を共有しながら展開を加速していきました。そして、設備の一括発注による規模の追求や体系的なコスト削減努力により、再生可能性エネルギーを安価に提供することに成功しました。また、化石燃料事業は売却を実施しました。こうして、同社は収益に占める再生可能エネルギーの割合が高く、世界で最も持続可能な企業の一つとなりました。まさに先見の明がある取り組みであったと言え、新規株式公開後、ビジネスモデル転換が進むにつれ同社に対する株式市場での評価、すなわち時価総額は大幅に増加しました。

戦略変更からわずか10年超でビジネスモデル転換に成功した秘訣は、複数あった再生可能エネルギーの選択肢の中から同社のリソースや競争環境を的確に見極め、事業を選別し策定された「戦略」、トップダウンでの明快な戦略転換とそれを社内に徹底しつつ従業員を牽引した経営陣の「リーダーシップ」、新規事業領域でのサプライチェーン構築においてM&A・事業提携を含めた外部リソースの積極活用による「スピード」にあったと思います。日本にとっても示唆がある事例ではないでしょうか。

私は日々、財務情報やESG要素を含む非財務情報に関して企業分析を行っていますが、これからもサステナビリティに関する視点を大事にしながら、SDGs達成に向けた取り組みで事業機会を創出する企業、ビジネスモデル転換を通じて、リスクの低減と業績の持続的な成長が見込める企業等の発掘を通じて、投資リターンの追求に邁進していきます。

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