アナリストの眼

企業分析におけるDXの捉え方

掲載日:2022年01月13日

アナリスト

投資調査室 佐藤 啓吾

2021年も新型コロナウイルス感染拡大により、働き方や生活も新たな様式を意識した行動を心掛ける必要のある一年だったと感じています。また、コロナ禍において、自分自身の行動を変化させるのと同様に企業が提供するサービスも随分変わってきたとも感じています。身近な例を挙げると、外食業界では宅食サービスの普及やゴーストレストランといったネット上だけに出店する業務形態も出現するなどがあります。私の担当するサービスセクターにおいても、ただ単に感染拡大防止の努力をするだけでなく、業績成長を実現するために新たな変化に取り組む企業が増加しているとの印象を持っています。

DXというキーワードが各種記事やニュースにおいても日本の生産性向上の方策の一つとして取り上げられることが当たり前になってきていますが、企業取材の中でも経営戦略の一貫として語られるケースが増加してきました。
ただ、DX視点での企業分析として重要なのは、自社の強みや弱み、事業成長機会を意識した上でそれを高度化し、変化させるための具体策にまで落とし込めているかということだとアナリストとしては考えています。

例えば、従業員向けには在宅ワーク、顧客向けにはCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれる顧客情報の可視化や営業プロセスの分析を実現するITサービスの導入を進めるなどが挙げられますが、本質的な組織改革や企業全体の収益性向上にどれだけ繋がるかという狙いが備わっている必要があります。従業員のスキルやモチベーションの向上度や部署ごとの生産性変化に基づいた人材配置の最適化、営業効率向上による市場シェア拡大の可能性など、経営者自身が組織全体を見渡し経営戦略をブラッシュアップする意思決定をどれだけ行えるか。導入後の仕組みが重要であり、ただ単にITサービスを導入するための予算だけを設定するだけでは本質的な変化は期待できないでしょう。
経営者が改めて自社の強みを見直し、過去の成功体験にとらわれることなく、これまでと全く違うビジネスを展開していくために、経営資源を投入し組織を変えられるかどうかという視点も企業分析において重要です。労働集約的な業務プロセスをITによって効率化するだけでは既存ビジネスの運営に必要なオペレーションを改善することのみに留まってしまいます。

DXはデジタルトランスフォーメーションという言葉のとおり、どれだけ自社のビジネスモデルをデジタルという手段を用いて変革できるか、社会様式を変えてしまうレベルで新たなビジネスを展開できるかどうか、ということまでを指しているとアナリストとしては捉えています。

例えば、長い歴史があり市場シェアの高い企業であれば、製品やサービスの販売チャネルをEC(電子商取引)に変化させるだけでなく、強みである顧客基盤から生まれる膨大なデータをデジタル視点で整理分析し、新たなサービスや顧客接点の仕組みを作り、顧客の購買行動や消費性向も変容させるところまで検討することや、研究開発費の大きい企業ならば、製品ビジネスからデータビジネスに移行するなど、企業の歴史や業界や業態、市場でのポジションに応じて様々な可能性があるとは思いますが、日本企業において、これまでとは違ったビジネス変革が実現することをアナリストとしては期待したいです。

アフターコロナという言葉も聞かれるようになって久しいと感じていますが、DXが重要と叫ばれる時代においても経営の質が問われていることは全く変わらないと感じています。日本企業の経営戦略や組織戦略の高度化を通じ、より良い社会を実現するために、アナリストとして企業との建設的な対話を実践していきたいと考えています。

アナリストの眼一覧へ

「アナリストの眼」ご利用にあたっての留意点

当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。

【当資料に関する留意点】

  • 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
  • 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
  • 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
  • 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。