アナリストの眼

持続可能な素材とは~素材企業の目指す方向性~

掲載日:2021年12月13日

アナリスト

投資調査室 野田 健介

人口増加と大量生産・大量消費によって環境問題が年々深刻となる中、環境負荷の低い素材へのシフトが求められています。来年度にはプライム市場銘柄でのTCFD準拠が求められており、企業の環境情報の任意開示件数が増加しています。気候変動影響への対応策は主に「緩和策」と「適応策」がありますが、ここではアルミを例として、大きく3つの方法を見ていきたいと思います。

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1つ目は、製造プロセスの変更や、リニューアブル電力の利用推進による環境緩和策があります。原料であるボーキサイトからアルミを製造する工程では大量の電力が消費されますが、既存の電力の大半は化石燃料を燃焼して作られています。化石燃料の燃焼時に発生する二酸化炭素は地球温暖化の主要因と考えられていますが、化石燃料を用いない電力を利用することで環境負荷を低減することが求められています。
2つ目は、リサイクルの促進です。一度利用されたアルミを再利用することで、廃棄物の焼却量や最終処分量を削減することができます。また、新たに地球から資源を採掘する必要がないことから環境負荷低減のメリットもあります。ボーキサイトからアルミを製造するという工程のみならず、利用者の視点を含めたSCOPE3(サプライチェーンにおける事業活動に関する間接的な温室効果ガス排出量)の観点においても、環境負荷低減に繋がります。
3つ目は、代替財への移行です。仮にアルミの環境負荷削減コストが過大な場合や、環境負荷削減効果が不十分であれば、鉄やプラスチック等その他材料へのシフトが必要になります。3つ目の対応となると追加投資が掛かることから難しい経営決断になりますが、既存資産の座礁資産化を避けるためにはシナリオ分析に基づいた合理的な経営戦略立案を行い、思い切った投資判断も必要な局面に差し掛かっています。

最終消費財メーカーが素材を厳選する動きも加速しています。例えば米国のアップルは2030年までに製品製造に関わる二酸化炭素排出量ネットゼロを目指しており、iPhoneやiPad等での再生アルミ利用比率を高めています。日本のキリンホールディングスは飲料ボトルの製造ではアルミよりプラスチックの方が環境負荷が低いと判断し、リサイクル樹脂の使用比率を高めたPETボトルの利用を優先しています。
消費者の求めるニーズも大きく変化しており、それに合わせて求められる素材も変わってきました。これまでは高性能で大量生産できる安価な素材が求められていましたが、現在では追加的な付加価値として環境負荷が低く持続可能性が高い素材が求められるようになっています。
新たな価値観が台頭する中、投資の取捨選択の重要性は増しており、企業の経営層は消費者ニーズを的確に見定めた投資を実行する必要があります。環境に関わる投資は過渡期にあり、投資額はますます増加していくと予想され、中長期的な企業価値に与える影響も大きくなっています。

今後もニッセイグループの強みを最大限活かし、持続的な企業価値向上に繋がる経営戦略対話を実践し、成長可能な銘柄の発掘をしていきたいと考えています。

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