アナリストの眼

DX × 医療 = 投資機会?

掲載日:2021年10月19日

アナリスト

投資調査室 山本 真以人

新型コロナウイルスの流行により、我々の生活は大きく様変わりしました。特に象徴的だったのは、政府による緊急事態宣言の発令などにより、外出自粛を余儀なくされたことではないでしょうか。私も在宅でのリモートワークを経験しましたが、新型コロナウイルスの流行は、結果として社会におけるデジタル技術の活用を進めました。そして日本政府においても、ポストコロナの新しい社会をつくることを目的に、デジタル庁創設など積極的にデジタル改革を推し進めています。

では、医療分野では具体的にどのような変化があったのでしょうか。まず、オンライン診療が話題になったことは、記憶に新しい方も多いのではないかと思います。従来は、オンライン診療における初診が認められていませんでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止する目的から、特例的に初診が解禁されました。2021年6月には、初診からのオンライン診療を2022年度から恒久的に認めることを盛り込んだ規制改革の実施計画が閣議決定され、オンライン診療の利便性向上が期待できる結果となりました。

また、マイナンバーカードの普及も話題となりました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、政府から特別定額給付金が支給されることが決まった際、マイナンバーカードがあればオンライン申請が可能であったためです。行政の縦割りを打破するために創設されたデジタル庁においても、社会保障費削減の観点からマイナンバーカードの普及促進が謳われています。マイナンバーカードが健康保険証として利用可能となることをはじめ、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」で患者自身が処方された過去の薬剤情報や様々な健診情報が取得できるようになり、かつ患者本人の同意のもと医師や薬剤師がそれらのデータを確認することが可能となる計画であるため、今後はデータを活用したより適切な医療が期待されます。

一方で、オンライン診療にしてもマイナンバーカードの取得にしても、普及率が決して高くない状況と言えます。オンライン診療に関する厚生労働省の資料によれば、電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数は、2021年4月末時点で16,843施設であり、全体の15.2%となっています。さらに、初診から実施したとして報告のあった医療機関数は、2021年3月で632施設と全体の0.57%となっています。まだまだ、国民にオンライン診療が普及しているとは言い難い状況です。またマイナンバーカードに関しては、2021年7月1日時点の交付状況は43,438,155枚と人口に対して34.2%となっています。2023年3月末にはほとんどの住民がカードを保有するという政府目標に対しては、進捗が遅れている状況です。ただし、2021年9月24日時点では、デジタル庁がコロナワクチンの接種証明書(電子交付)の仕様に関する意見を募集しており、デジタル庁が公開した仕様案ではマイナンバーカードを使用する仕組みであるため、日本国民がマイナンバーカードを取得する理由を見出せないという状況は改善に向かう可能性があるでしょう。

上記の様に医療分野を捉えると、「デジタル化を進めたい政府」と「活用に腰の重い国民」という構造になっています。その背景には、様々な要因があると思います。しかし、政府と国民にギャップがあればあるほど、民間企業の活躍の余地が大きいと考えることも可能ではないしょうか。このギャップを埋めるサービスを提供する企業が続々と出てくれば、それは大きな投資機会になると考えています。アナリストとして、このような社会課題を解決することにより企業価値を高められる企業を、積極的にリサーチしていきたいと考えています。

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