アナリストの眼

SDGs達成に向けた取組推進によるリスクと機会

掲載日:2021年09月06日

アナリスト

投資調査室 堀 大輔

最近、「SDGs」がテレビや新聞等のメディアでも頻繁にとりあげられるようになり、日常の中でも「SDGs」を目にすることが多くなってきています。「SDGs」は、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略であり、2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。

日本では、全ての国が行動するという「普遍性」、社会・経済・環境に統合的に取り組む「統合性」等の5つの方針のもと、17の国際目標(Goal)から構成され、「誰一人取り残さない」ことを誓っています。現在、日本だけではなく、世界中で産官学等が連携を取りながら目標達成に向け取り組んでいます。

  • 出所:持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割(外務省2021.3)

SDGsは企業にとってどのような意味を持つのでしょうか?

例えば、SDGs Goal13 「気候変動に具体的な対策を」に関連して、脱炭素社会の実現に向けた取組が世界中で積極化しています。その結果、地球温暖化の原因といわれる、二酸化炭素を多く排出する石炭や石油等の化石燃料の消費量を減らし、化石燃料事業に対する投融資を控える動きが加速しています。化石燃料事業を営む企業にとっては、社会環境の変化による需要の低下や座礁資産リスクの高まりが資本コストの上昇に繋がることから、海外企業の株主総会では、サプライチェーンの温室効果ガス排出量の低減目標と中長期的な気候変動戦略を促進すべく、勧告的決議(Advisory Vote) にかける企業も増加しています。

  • 法律及び定款で定められた株主総会の決議事項ではないが、株主総会における議案として株主意思の確認をおこなう場合の決議。法的には拘束力はないが、株主から明確に反対された経営方針を取締役会が強行することは難しく、決議の影響力は大きい。株主にとっては、影響が大きい戦略変更に関して議決権行使で意思表明する機会が得られることになる。事例として、買収防衛策の導入に関する株主総会決議は会社法及び定款に定められた議案ではないが、株主の意思の確認するために諮る事が多い。

地球温暖化対策として化石燃料の消費量を減らせば、化石燃料由来のエネルギー減少分を補うため、エネルギー効率改善や代替エネルギー促進といった取組も同時に推進する必要があります。エネルギー効率改善に貢献する省エネ技術に強みをもつ会社、ガソリン車代替として電気自動車や燃料電池自動車関連事業に強みをもつ会社、火力発電の代替として、再生可能エネルギー関連事業に強みをもつ会社にとっては、脱炭素は需要の増加、将来の投資プロジェクトの増加といった機会となります。

SDGs達成に向けた取組推進は、企業にとっては「リスクと機会」という意味合いを持ちます。世界経済フォーラム(WEF)の2017年の年次総会(ダボス会議)では、SDGsの達成に重要な役割を果たし、世界のGDPの約6割を占める、「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福祉」の4分野で、少なくとも12兆米ドルのビジネス機会が創出される予測が共有されました。今や企業にとって、SDGsの取組はリスクの低減につながり、ビジネス機会獲得に繋がるということが当たり前として捉えられるようになってきていると考えます。SDGsへの取組は、企業の「E(環境)」「S(社会)」関連のリスク・機会への取組と関連性が強く、「G(ガバナンス)」とあわせて、アナリストによるESG評価の重要な要素となっています。

  • Better Business Better World (BUSINESS & SUSTAINABLE DEVELOPMENT COMMISSION (2017.1))

当社アナリストは、短期業績の変動ではなく、中長期的な経営ビジョン・戦略、企業のサステナビリティ(ESG)等に着目して企業分析を行い、中長期業績予想に反映しています。業績予想の精度を高めるには、企業価値への影響の大きいESG要素の抽出が重要となり、個々の企業がおかれた環境社会的立ち位置を鑑みた分析が必要になります。

ESG分析力を向上させるために非財務分析に関する研鑽を継続していますが、広範な視点を把握する為には世界各地域の社会背景の理解が非常に重要だと考えています。そのため、東京の日本株アナリストに加え、外国株では、北米・欧州・アジアのグループの海外拠点のアナリストが企業訪問等を行いながら、ESG評価を行い中期業績予想に反映すると共に、国内外のアナリスト間の横連携を深めています。

海外拠点ネットワーク

今回は、SDGs達成への貢献が企業価値向上に繋がるとアナリストが評価する欧州の素材会社の事例を紹介いたします。同社は長年に渡り資本効率を重視し、ROCE(Return on capital employed:使用資本利益率)をKPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指数)として設定し、M&Aを通じコモディティ化した石油化学事業から安定的な収益成長が期待できる栄養関連事業へと事業ポートフォリオを変遷させつつ、グローバル競合企業に対し自社が競争優位を確立できる領域に経営資源を集中したことで持続的な成長を果たしています。

同社が成功した背景は、SDGsの採択後早期に重点的に貢献すべきSDGs目標と、競争優位が確立でき持続的な収益成長が図れる領域を照らし合わせ、5つの目標を重点領域と設定して非財務KPIと財務KPIを対外公表すると共に、経営者の長期報酬をKPIと連動させることで、経営戦略・KPIと経営者のインセンティブを合致させたことだと考えています。

また、経営戦略の浸透を図るべく、主要な投資プロジェクト評価に100€/t-CO2 equivalentをプライシング(価格設定)して意思決定を行うと共に、温室効果ガス排出削減を推進しています。

  • 排出する温室効果ガスに対し二酸化炭素換算1トンあたり100ユーロの費用を上乗せ

上記は、「リスクと機会」を経営戦略に紐づけ、企業行動に繋げたことで企業価値向上に至った好例です。このような企業行動は、アナリストの企業取材を通じて取組み進捗を把握し、SDGs達成への貢献が企業価値向上に繋がるかという視点で中長期業績予想に反映しています。日本企業でも「ESGのマテリアリティ(重要課題)」に関する開示は年々充実してきており今後の企業変化を期待したいですが、インベストメントチェーン(投資資金の流れ)における運用機関の役割・使命として、海外企業の先例にも触れることは今後も積極的に取り組みたいと思います。

今後も、企業のSDGsの取組を、財務分析に長けた国内外のアナリストがESG評価・中長期業績予想に反映することで、良好な投資リターンに繋げていくよう努力していきたいと考えています。

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