アナリストの眼

ゲーム業界の変化~顧客満足度向上のためのデータ活用~

掲載日:2021年05月07日

アナリスト

投資調査室 佐竹 一仁

ゲーム市場は、最先端のグラフィック技術や、新しいキャラクターの創出により、多くのヒットタイトルを生み出す日本の成長産業と見ています。かつての国内ゲーム業界は、新規ゲームソフトのヒット動向次第で企業収益の変動が大きく、株価も不安定な動きをしていましたが、収益の安定拡大に向けた多種多様な取り組みが奏功し、企業価値が向上しています。今回はアナリストが着目する顧客ニーズの活用や、サブスクリプションモデル(定額課金での期間利用)導入について取り上げたいと思います。

インターネットの普及・回線が強化されたことで、オンラインゲームで遊ぶ人口がグローバルで年々増加しています。オンラインゲームの市場動向に大きな影響を与えたのが、2010年代前半のスマートフォンの普及です。当時は中小様々なゲーム会社が新たに誕生し、ゲーム市場の主流がプライベートゲームからソーシャルゲームへと変化していきました。この時期からゲーム会社の作品創りのプロセスも大きく変わりました。

それは「顧客ニーズの活用」です。開発者が思いを込めたゲーム作品が消費者にどのように遊ばれているかというユーザーの仕草や、また遊んでみたいと思っているのかというユーザーの声は作品価値を高める重要な情報です。また、想定より楽しまれていない仕様や、バグといわれるプログラム上の誤りを検知した際に早期に修正を図る事は顧客満足度の低下を防ぐことに繋がります。ゲーム会社は過去よりアンケート調査やインターネットの評判を基に対応していましたが、対応を施した段階で既にユーザーが興味を失ってしまっていることも多く、いかに迅速に顧客ニーズを活用するかが商品価値に大きな影響を与えます。

アナリストが着目するのは、ゲーム会社がプレイ時間・ゲームの進捗度合い・ユーザーがストレスに感じる点等を把握し、迅速にアップデートを重ねることで、1タイトルの寿命が長期化できる点です。過去のタイトルは、売り切り型のゲームが多く、初期出荷時点での作品の完成度の高さや人気度でヒットの有無が決まる傾向が強かったように思います。経営者は、面白い作品を作るために開発者の開発環境や待遇を上げることで開発費用が増加する一方、発売したゲームが売れない場合には利益が出ないという収益構造に苦心していました。現在は、開発者がユーザーのためにアップデートしていくことで、ユーザーがより長く作品を楽しむことが出来る関係性に変化しており、発売後3年以上売れ続ける作品が増えた点は、非常に大きな変化です。これにより、経営者の収益力を上げたいという方向性と開発者のユーザーに楽しんでもらいたいという方向性が合致したことで、企業価値向上に向けて経営者と従業員(開発者)の一体性が向上しているように感じています。

もう1つ着目しているのがサブスクリプション型のビジネスモデルです。ユーザーは月額定額課金することで、提供会社の複数タイトルを遊ぶことができるようになります。近年では、サブスクリプション型のサービスを提供し、解約率を低く抑えながら、ユーザー数を拡大することで、着実に売上高が増加し、大きく開発費をかけたビッグタイトルの販売動向に業績が大きく左右されにくい収益体質を目指す企業が出始めています。導入した企業は、解約率改善に向けた顧客分析(解約理由の解消)や、新規顧客獲得のための施策等、自社の課題をより定量的に図ることが可能となり、自社の課題が浮き彫りになると思います。定番タイトルに依存しすぎず、新規タイトルを増やすことで顧客層を拡大することや、発売から時間が経過した作品でも楽しめるようクオリティを高める必要がある等、まだ解決すべき課題は多いですが、企業が安定成長できる仕組みとしては有効な取り組みの1つと考えています。

日本のゲーム会社は、グローバルの競合他社と比較しても遜色のない非常に強力なキャラクター・ゲーム開発力を保有しており、将来さらに伸びるポテンシャルが大きいと感じています。ここまで紹介した取り組みや、独自の新しい施策により、ゲーム会社の企業価値が更に拡大することを期待したいと思います。

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