アナリストの眼

海外滞在で感じた製品・サービスの受容性

掲載日:2021年03月10日

アナリスト

投資調査室 八並 純子

新型コロナウイルスの感染拡大で増えたものの一つは、家での食事です。私が担当している食品セクターでは、業務用食品は苦戦を強いられましたが、多くの企業で家庭用食品の売上が増加しました。最初の緊急事態宣言が出た際には即席麺のようにすぐに食べられるものが大きく伸びましたが、その後は香辛料などの調味料売上が増えたりと、新たに家で料理をする楽しみを覚えた方も数多くいらっしゃったのではないでしょうか。諸外国でも内食が増えており、中国でカレールーやドレッシングの売上が増え、アジアでは家庭用の合わせ調味料、欧米では醤油の売り上げが増えるなどといった傾向がみられました。

食事は文化を知る手段の一つです。私は少し前まで2年半フランスで生活しました。現地で売られている野菜、肉や魚の種類、調味料などが違い、日本の家庭料理を再現するのはなかなか大変です。SUSHIは独自の進化を遂げ、サーモンロールのようなものが売られていますが、日本人が思い浮かべる和食とは別物でした。ビオセボン(フランスのオーガニックスーパー)では、数種類のTOFUはマリネ風の味付けをされサラダ用途で使われており、日本で食べる豆腐とは別の活かされ方となっていました。日本と同じ味わいの和食店は現地でも高級レストランとして人気がありましたが、醤油、出汁、ゆず、抹茶などといった日本発の調味料や素材は日本人やフランス人シェフの方々の応用により、新しいフランス料理の姿の一つとして浸透しつつありました。新しいものを積極的に取り入れて自分流に仕上げ、自国の食文化として進化させていくというフランスにおける異文化への受容性は流石だなと思います。

滞在時には異なる価値観に出会うこともしばしばありました。例えば、美容院に行くと施術ごとに担当者が異なる分業体制となっており、料金設定は個別サービスの積み上げ方式でした。お客さん側もカットだけして髪が濡れたまま帰る人がいたり、自分でドライヤーを借りてブローする人がいたりします。また、「白髪はメッシュで動きがでるのでわざとすべて染めない方が良いのでは」と、日本ではなかなかないサービス提案も受けたりします。以前、とある企業のIR(広報)で、「進出する前に若手を1年派遣し徹底的にその国の文化を学ばせる」と伺ったことがありますが、海外滞在をしてみるとなるほど理に適う方針だなと思いました。グローバル化といっても、製品力さえあれば売れるという簡単なものではない、特に生活に関わる製品ではその国の文化を知ることが第一歩であるということが身に沁みました。

日用品もしかりです。洗剤やシャンプーなどで日本では当たり前の詰め替え用はほとんどなかったり、新製品の数が少なく定番品が強かったり、目薬が薬局で売られていなかったり、と顧客ニーズを取り込めていない要素を多く感じる一方、環境に対する意識は高くプラスチックトレイの数は日本の方が圧倒的に多いです。基本的に家庭にクーラーのない欧州の人々にとって、温暖化に関してはより切実に感じられているのでしょう。従前よりかなり暑い日々が常態化しており、これまでは主流ではなかったアイスラテを飲む人が増えたり、冷たい紅茶が売れたり、新しいニーズが顕在化するとともに環境意識が一段と高まっている印象です。

グローバル進出は日本企業の重要な成長戦略の一つです。グローバル化に成功している企業と成功していない企業の差を分析する上で、製品の競争優位性が第一ですが、現地の文化にいかに適合するのか、またそれをやり続けることができるのかが大きなカギとなります。そんなことを改めて実感する2年半となりました。今回の新型コロナウイルスの感染拡大により変化した新しい生活様式のなかでも、世界の様々な場所で新たに日本企業の製品の価値に気付いている人がいらっしゃると思います。そういった動きをチャンスとして、いかに次の成長につなげられるのか、企業の変化に注目したいと思います。

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