アナリストの眼

テレワークを活用した「働き方改革」への取り組み:
ある老舗企業の取り組み事例から思うこと

掲載日:2021年02月15日

アナリスト

投資調査室 醒井 周太

コロナ渦を契機に、テレワークを活用した「働き方改革」への取り組みが一気に加速し、新聞やテレビで目にしない日が無いほど、注目を集めています。
昨年5-6月に東京商工会議所が会員企業に実施したアンケート(約1,000社回答)でも、テレワーク実施率は、3月に26%だったものが、6月には67.3%へと、大きく伸びました。
ただ、春の緊急事態宣言下、緊急避難的に、トップダウンで取り入れた会社が多かったためか、状況が少し落ち着いた9-10月の同アンケートでは、実施率53.1%と減少に転じています。テレワークを取りやめた理由の一番は、「業務の生産性が下がる:45.7%」と、導入してみたものの、うまく活用できなかった様子が垣間見えます。

一方で、春の緊急事態宣言解除後の社員アンケートで、85%近い社員から「テレワークを継続したい」との回答が出て、これを契機に、テレワークによる働き方改革を加速させている企業もあります。動きの早いスタートアップ企業の話ではなく、従業員10万人規模(創業85年)の大企業です。
同社は、既に、通勤手当を廃止してテレワーク手当を付与、サテライトオフィスを拡充する等、勤務先を多様化、またそれに伴い、単身赴任の解消等も実施しています。

ここ数年、働き方改革の一環として、テレワークを推進する大きな流れはあり、コロナ禍以前から、例えば、総務省が音頭をとった「テレワーク・デイズ」という運動もありました。2017年からスタートし、2019年には2887団体、68万人が参加しています。多くの企業が、テレワーク可能なシステムや、制度の整備を進めてきました。

  • 「テレワーク・デイズ」:総務省主導で、都や関係省庁・団体と連携し、2020年東京オリンピックの開会式が予定されていた7月24日を、「テレワーク・デイ」として、テレワークの一斉実施を呼びかける国民運動

とは言え、長きに渡る日本の労働習慣が、一朝一夕に変わるわけではなく、テレワークはあくまで例外的な扱いで、子育て中の社員などが、補完的に使うにとどまってきました。そんな中、同社は、実際にテレワークを利用する現場からのボトムアップのフィードバックや要望を、オンラインで即時に擦り合わせできるシステムを導入し、ブラッシュアップしていました。
これによって、コロナ禍でテレワークを利用せざるを得なくなった社員が、”例外的でなく通常業務として利用するにはどうすればよいか”、”障害になっているのは何か”、”実効性の高い仕組みにするにはどうすればいいのか”、そういったことを、経営トップやシステム部門へ要望を出し、改善・擦り合わせをし、”使えるシステム”へ、リアルタイムで修正していくことができたのです。

緊急事態宣言中にたった2カ月ほどの強制的に導入されたテレワークの中で、すべて修正され使えるようになったわけではありません。しかしながら、2020年11月に実施された同社の社員アンケートでは、「生産性が変わらない・上がった」人の割合が75%にまで到達しました。従業員がモチベーションを高めながら、生産性を高めている様子を伺い知ることができます。

ニッセイアセットが注力するESGの、S(Social)の観点からも、経営者と従業員との一体性が高まるこのような取り組みは、生産性の改善を通じて、企業価値向上に繋がるものであり、高く評価できます。今後とも企業の動向を注視していきたいと考えています。

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