アナリストの眼

統合報告書における社外取締役のパートの重要性

掲載日:2021年01月18日

アナリスト

投資調査室 小林 守伸

「日本再興戦略2014」に基づき、コーポレートガバナンス・コードが2015年5月に策定されて以降、日本のコーポレートガバナンス改革は急速に進展しました。とりわけ社外取締役の選任は顕著な改善がみられます。東証一部上場企業のうち2名以上の独立社外取締役を選任している企業の割合は、2014年が21.5%であったのに対し2015年は48.4%、2016年は79.7%と急拡大し2020年には95.3%に達しています(「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」2020年9月7日)。そして、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂に向けては独立社外取締役数の増加など社外取締役機能のさらなる拡充が議論されています。

それだけコーポレートガバナンスにおける社外取締役の果たす役割は大きく、経済産業省は2020年7月に「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」をまとめています。そのなかの「第2章第6項:社外取締役としての具体的な行動の在り方―投資家との対話やIR等への関与-」において、「6.1:投資家との対話を行い、その視点を取締役会に反映させる」および「6.2:監督者として投資家等への発信・説明を行う」ことが各々章立てて説明されています。

この「社外取締役ガイドライン」の参考資料に掲載されている「社外取締役と株主・機関投資家との対話」に関するアンケート調査によると、社外取締役と株主・機関投資家との対話について、「対話を行う必要性を感じない」との回答は社外取締役側が14%であるのに対し、企業側では29%に上っており、「今後、対話の機会を持っても良い」との回答についても社外取締役側では76%に上るのに対し企業側では56%にとどまっており、企業側の方が消極的な結果となっています。

企業側が躊躇する理由については「社外取締役の負担を考慮し、会社として社外取締役に対してエンゲージメントの対応を依頼することを躊躇する」との回答が60%、「会社として統一的な説明を行う必要があるため、依頼することを躊躇する」との回答が37%となっています。

投資家側において社外取締役との対話は有益です。お互いに社内のしがらみがないという点で目線が近いところにあります。先程のアンケート調査において企業側は「会社として統一的な説明」への拘りが見て取れますが、投資家側は多面的な視点も重視しています。社外取締役とその企業の経営課題などについて多面的に議論することでその企業の理解を更に深めることができるからです。また、投資家側が抱いている課題を社外取締役に伝えることで改善に向けた取組の進展も期待しています。

社外取締役の主たる活動の場は取締役会なので、取締役会の実効性を見る上でも社外取締役の見解は有益です。 「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2019」によると、市場第一部・市場第二部上場会社の78.9%が取締役会の実効性評価を実施しています。コーポレートガバナンス・コードが導入され実施する企業が急増しましたが簡潔に記載する企業が多く、投資家としては必ずしも有益な情報とは言い難いのが実態です。社外取締役とのミーティングの場などで取締役会での議論の状況などを確認できるのは貴重な機会となります。

企業によっては社外取締役による説明会を開催するなど前向きな取り組みもみられ、当社でも個別にミーティングを設定させていただくなど社外取締役との接点は増加傾向にあります。ただ、先程紹介したアンケート調査のように社外取締役の負担を考慮される企業が多いのも事実です。社外取締役の多くは本業をお持ちであり、複数の企業の社外取締役を兼務されている方も多く、時間的な制約があることは十分に理解しています。

こうした背景から私が重視しているのが統合報告書・アニュアルレポートにおける社外取締役のパートです。インタビューや座談会形式を採用される企業が多く、社外取締役の生の声を把握することができるからです。なかには企業側の意図からか無難なコメントに終始してしまっているケースも見受けられますが、多くの企業で課題の提起や取締役会での議論の状況などを確認できる内容となっています。双方向の対話はできませんが、有益な情報を得る場になっているのです。

当社では統合報告書・アニュアルレポートを対話活動の礎として重視しており、記載内容のベストプラクティスなどアナリスト間での共有に努めています。統合報告書の審査なども担当させていただいており企業の皆様と統合報告書に関する意見交換をする機会も多く、社外取締役のパートの重要性をお伝えしています。

先日、私がある企業の統合報告書の社外取締役のパートを読んでいたところ、新任の社外取締役の座談会でのコメントに感銘を受けました。その企業の長所だけではなく課題についてもしっかりとコメントされていました。その方は他の企業の社外取締役も兼務されていたことから、早速、その企業の担当アナリストにも記載内容を連携、現在、その社外取締役の方とのミーティングの設定を進めているところです。

投資家としては社外取締役に関する情報は限られています。統合報告書・アニュアルレポートの社外取締役のパートなどを活用し、社外取締役の見解、活動内容などをできるだけ詳細に開示していただくことは重要です。また、可能な限り社外取締役と投資家との対話の機会にも前向きに取り組んでいただくことがコーポレートガバナンスを向上させ、企業価値拡大につながるものと期待しています。

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