アナリストの眼

前提が変わる時代のアナリスト活動

掲載日:2020年11月10日

アナリスト

投資調査室 堀井 章

最近、VUCAと呼ばれる言葉をしばしば見聞きすることがあります。VUCAとは、V:Volatility(変動性)、U:Uncertainty(不確実性)、C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとって作られた言葉で、社会やビジネスにおいて将来の予測が困難になっている事を意味する言葉として使われます。新型コロナウィルスの感染拡大は、VUCA時代を象徴するものだと感じます。新型コロナウィルスの感染が世界中に急速に拡大し、社会・経済に大きな混乱をもたらすことを昨年の時点で予想できた人は殆どいなかったはずです。また、新型コロナウィルスの感染拡大によって、世界の大国の摩擦が再燃することにつながるとは、なかなか想像できるものではないでしょう。

ところで、弊社では、アナリストは企業分析をする際、分析した内容を最終的には企業の中長期業績予想に反映し、企業価値評価を行います。2008年からは、ESG(環境、社会、ガバナンス)評価も開始し、企業価値への影響の大きいESG要素について分析・評価し、それらを中長期業績予想に反映することで、業績予想の精度を高めてきました。そうすることにより、投資判断のベースとなる企業価値評価をより高い確信度をもって行うことができるようになります。

短期の業績予想は、直近の延長線上にあるため、財務情報からトレンドを読み取ることである程度行うことは可能です。例えば、4-6月期が増益であれば、7-9月期も増益である可能性が高い、と言えるかもしれません。しかし、5年後の予想となると、過去の財務情報の分析だけでは不十分であり、ESG等の非財務情報がより重要となります。

アナリストは、ある程度前提条件を定めてから業績予想を作成しますが、通常「GDP成長率〇〇%の”平時の世界”」を前提としています。しかし、前述の通り、今はVUCAの時代であり、そもそも業績予想の前提条件が何年間も変化しないことは稀になってきています。まさに今回の新型コロナウィルスの感染拡大はその最たるものの1つと考えられます。

今回のコロナ渦を受け、担当全銘柄の業績予想を一から見直しましたが、多くのESG高評価企業の中期的な業績予想については、大幅に修正する必要性を感じませんでした。例えば、もともと社会課題を解決するような商品・サービスを提供しているA社の場合、外的ショックにより短期的に売上が落ち込む事はあっても、その社会課題が長いトレンドに基づいているため、長期的な売上拡大を予想する見方を変更する必要はないと判断しました。また、従業員の健康や安全を第一に掲げるB社の場合、新型コロナウィルスの感染が確認された初期段階から、リモートワークの積極導入等を行い、「従業員の健康・安全を守りながら事業継続を目指す事は経営者の責任である」、との趣旨のメッセージを発信されていました。従業員のモチベーションが維持され、外部環境の変化時にも強い人的競争力が維持されるとイメージすることができました。

さらに別の事例では、全世界に根付いた販売店網が強みの一つであるC社の場合、コロナ渦で先行き不透明な中で、全世界の販売店を全力でサポートする取組みを確認することができました。販売店の厳しい財務状況をサポートするだけでなく、コロナ渦で生まれる新しい需要獲得のためのトレーニングも積極的に行っていくとのお話もお聞きすることができました。厳しい時こそ、ステークホルダーと協力して危機を乗り越えようとする姿勢に、今後更に競争力が高まることが想像できました。

ESG分析自体が、企業のサステナビリティの観点から行っているものであるため、これは当然の結果ともいえるのですが、ESG分析を平時から適切に行っておくことで、想定外の事態が発生した際の企業行動をある程度事前に予想することが可能であることを、今回のコロナ渦でのアナリスト活動を通じて改めて認識することができました。これからも、平時にこそESG分析を地道に行っていこうと考えています。

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