アナリストの眼

トラック運送業界を取り巻く課題と変化

掲載日:2019年12月23日

アナリスト

投資調査室 木村 嘉明

様々なメディアにて「物流クライシス」といった言葉とともに物流業界が直面する課題が語られるようになったと感じています。一口に物流業界といっても、トラック運送、宅配、倉庫運営といった様々な事業領域により構成されていますが、取扱う貨物数量が継続して増加している点、数量の増加に対応する人手が不足している点は、いずれの領域でも共通する課題であるといえます。このコラムでは、トラック運送業界における長距離幹線輸送を担うドライバー不足という課題への取組みについて述べていきたいと思います。

そもそも、なぜ貨物数量は増加しているのでしょうか?背景には、BtoB(企業間取引)における発注の小口化・多頻度化に加えて、EC(電子商取引)市場の規模拡大が挙げられます。日本のEC化率は8%程度と米国(12%)・中国(20%)などとの対比で上昇余地も大きく、貨物数量は増加の一途を辿っています。

一方で、幹線輸送を支えるトラック運送の従事者数は大きく変化しておらず、足元では7割近い運送業者がドライバーの不足感を感じるまで人材の逼迫感は高まっています。トラック運送については、運転が長時間に及ぶことに加え、荷主の庭先での荷待ち時間が生じるなど拘束時間が長く、パートタイム人材によるドライバー数の確保が難しいという特徴があります。加えて、従業員の高年齢化が他業界対比で進んでおり、宅配や倉庫運営といった他の物流の事業領域と比較しても、人手不足の課題は特に深刻であるといえます。

この状況下で物流ネットワークを維持することは重要な企業課題といえるでしょう。鉄道や船舶など他の輸送手段の活用によるモーダルシフト(環境負荷の小さい輸送手段に変更)という選択肢はあるにしても、物流における幹線輸送の位置づけは重要性が高く、ドライバー1人あたりの生産性改善が重要になってきます。方策の一つとして荷待ち時間の短縮、パレットの導入による荷役作業の効率化に加え、小口配送・多頻度配送の影響により低下傾向にあるトラック内の積載の効率化は、改善の効果が大きいと考えます。

  • パレット: 荷物を載せるための荷役台。パレットを用いることでフォークリフトでの荷積みが可能となるため、ドライバーの荷役作業の効率化に加え、作業負担を軽減できる。

長距離幹線輸送を担うドライバー不足という課題に対して、各社が共同で取組み、互いにメリットを享受し合う動きが出てきています。先日、トラック運送会社と荷主である飲料・食品メーカー、貨物マッチング業者といった事業者が共同出資し、東名阪における幹線輸送を行うという発表がありました。25m級のダブル連結トラックを用いて、運送業者が通常の2倍の輸送量で幹線輸送を担当。加えて、生じたトラックの空きスペースにマッチング業者が他社の貨物を混載させることで、ドライバー1人あたりの幹線輸送能力を極大化させることが可能となります。このスキームの成立には、荷主の荷物量に季節変動が生じた場合でも運送業者の採算がとれる物量を確保する必要があるため、マッチングによる積載率の底上げが重要です。今後、共同輸送スキームが拡大していくにつれ、荷物のマッチングサービスに対する需要は高まっていくでしょう。

上述した事例の他にも物流ネットワークを維持するための様々な改善取組みが出てきており、労働集約的ビジネスであったトラック運送業界にも経営努力による競争差が今後広がると感じています。数多ある取組みの中から、広く受け入れられるサービスを提供できる企業を見出すことが、運用パフォーマンスの向上の観点からも重要であると考えます。変化の流れをいち早く捉えるべく、今後もリサーチ活動に取組んでいきたいと思います。

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