アナリストの眼

創薬手法の変化による画期的な新薬の創出

掲載日:2019年11月14日

アナリスト

投資調査室 山本 真以人

日本は1961年に国民皆保険制度を導入し、現在世界の約半分もの人が基礎的保険医療サービスを受けられないと言われる中でも、健康長寿を達成してきました。しかし、国民皆保険制度はこのような優れた側面がある一方、財政的には課題があるとも言えます。長期的には人口減少により財源の拡大が見込みにくい中で、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け社会保障費の増大が想定され、今後の税負担の増加が課題となっています。国民皆保険制度の存続のためには、薬剤価格の引下げに代表されるような医療制度の大胆な改革に取り組む必要があります。このような改革により、例えば製薬産業がマイナスの影響を受けるといったシナリオは充分に考えられます。製薬会社の経営者は、市場環境が逆風になったとしても、人々の健康と医療の向上に貢献する有用性の高い新薬開発に取り組み、企業価値の拡大に努めなくてはなりません。

有用性の高い新薬については、患者の治療満足度を向上させることが重要と考えています。日本政府も、従来以上に画期的な効果を見込める新薬の創出を後押ししています。例えば、世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指して創設された「先駆け審査指定制度」が挙げられます。この制度の要件には、既存の治療薬にはない効用があること又は既存の治療薬や治療法に比べて有効性の大幅な改善が見込まれることなどが含まれています。患者の治療満足度向上につながる画期的な新薬の開発が奨励されていると言えます。

画期的な新薬を創出するためには、創薬手法がポイントの一つになると考えています。創薬手法は、時代の変遷とともに進化しています。過去を遡れば、化学合成の低分子医薬品※1による生活習慣病治療薬の開発が主流でしたが、昨今では標的分子の枯渇や創薬研究の難易度向上を指摘する声もあります。そのような状況の中、近年ではバイオ医薬品※2の研究開発が進み、低分子医薬品が中心であった医薬品全体の構図も変化してきています。特にがんや関節リウマチなどの疾患領域では、バイオ医薬品開発により、患者に対する貢献度が上がってきているとのデータもあります。ただそれでも、難病・希少疾患と呼ばれる領域を中心に、新薬開発が期待されている疾患はまだまだ残されています。また、引き続きバイオ医薬品開発の更なる進展が期待されるとともに、再生医療・核酸医薬・遺伝子治療など新しい創薬手法での研究も進んでおり、製薬会社の潜在的なポテンシャルは広がっています。特に再生医療は、京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞での研究によりノーベル生理学・医学賞を受賞されていることから、日本が世界をリードする分野となるかもしれません。

  1. 段階的な化学合成の工程を経て産生される医薬品
  2. 有効成分がタンパク質由来、生物由来の物質により産生される医薬品

製薬産業を取り巻く日本の財政環境は厳しいですが、画期的な新薬を創出することにより、製薬会社が提供できる社会的価値は依然として大きいと考えています。逆に、社会に対して“新たな“価値を提供できない製薬会社は、制度改革の荒波によって淘汰されていく可能性もあります。だからこそ長期投資をする上では、画期的な新薬の創出により患者の治療満足度を高め、経済的な企業価値のみならず社会的価値の向上にも真摯に取り組んでいるかどうかが重要と考え、企業調査に取り組んでいます。今後も、このような見地に立った調査活動を継続し、パフォーマンス向上に繋げていきたいと思います。

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