アナリストの眼

サブスクリプションビジネスが変える日本の生産性

掲載日:2019年10月23日

アナリスト

投資調査室 佐藤 啓吾

近年、サブスクリプション(継続課金)サービスが随分と普及してきたと一消費者としても感じるようになってきました。例えば、NetflixやApple Musicなど、月額定額料金を支払うことで、場所や時間を選ばずに、いつでも好きな映像や音楽を視聴できるこのサービスは余暇時間を充実させるものであり、「所有」から「利用」への消費者のニーズ変化を捉えたビジネスモデルとして株式市場でも既に注目されています。

国内労働人口減少が予想される中、経済成長を実現するためには生産性向上が必要と考えられますが、その文脈で前段のサブスクリプションサービスがBtoC(企業対消費者取引)の領域ではなくBtoB(企業間取引)の領域で注目されつつあります。具体的には、中小企業のバックオフィス業務の効率化を実現するサービス。例えば、経費精算や請求書発行など人手がかかり紙やエクセルで業務管理をしている領域において、月額数万円というリーズナブルな価格で、高額な自社システムの構築を必要としないSaaS(Software as a Service)型のクラウドサービスという形態で簡単にシステム管理できる環境を提供し、顧客のバックオフィス業務の生産性の向上を実現するサービスの普及を成長機会として捉える企業が存在しています。

BtoBのサブスクリプションサービス、特にバックオフィス業務に関連するサービスは顧客が継続的に利用する傾向が高いため解約率が低く、サービスを提供する企業から見たときの将来収益の予測可能性が高まります。簡単に例えるならば、年間の解約率が5%のサービスを持つサブスクリプション企業の翌年度の収益は今年度の収益の95%が約束されて始まると考えることができるため、売り切り型の企業に比べて安定的な収益拡大が期待できます。

サブスクリプションビジネスの評価において重要なKPI(Key Performance Indicator: 重要業績評価指標)が顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)です。定義は様々ですが、LTV= 定期収益 ÷ 解約率で一般的には計算されます。例えば年間の定期収益が60万円のサービスの年間解約率が5%だった場合は、LTVは1,200万円(年間60万円の費用負担のサービスに20年間加入する計算)となります。LTVの高い顧客をいかにして低いコストで獲得するかという視点がサブスクリプション企業の収益性を図る上では重要で、新規顧客獲得コスト(CAC:Customer Acquisition Cost)とLTVのバランスを常に考えて経営しているかどうかが企業価値評価という観点でも重要なポイントの一つになります。国土が広くWebマーケティングによる集客が効率的であったという歴史的背景を持つ米国に比べて、日本は国土が狭く対面営業のニーズが高い営業文化を持つため新規顧客獲得コストのかかり方も違いがあり、米国でのマーケティング手法が日本でそのまま活かせるというものでもないため、企業評価の際にはこういった日本特有の商習慣などにも注意が必要です。

日本では、アナログで対応していた業務領域において、このようなSaaS型のクラウドサービスをサブスクリプション方式で提供する企業が増加しており、中小企業においても高額なシステム導入費用を必要とせず業務効率化を実現できる機会が増えています。人手不足への対応や生産性向上という日本全体の経営課題解決という観点でも今後普及が期待できるビジネス領域として注目していきたいと考えています。

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