アナリストの眼

多様な資本を活かす経営の魅力

掲載日:2019年08月22日

アナリスト

投資調査室 黒木 文明

企業経営者は様々な資本を使用して事業活動を営み、価値創造に取り組んでいます。日頃の調査活動では収益力向上に資する企業を見極める事に重点を置いていますが、いくらビジネスモデルが優れていても、必要な資本が不足することになれば、価値創造の持続性が危ぶまれます。私たちが企業分析を行う際には、財務・非財務情報の取得を通じて成長に必要な資本は確保できているのか、保有している資本をより有効に活用する余地はないのか、などを常に意識して調査活動を行なっています。

身近なところでは「人的資本」に関する環境変化がクローズアップされています。生産年齢人口の減少に加え、働き方改革関連法の施行もあり、労働力不足に対する経営課題は、雇用人員判断DIや有効求人倍率などの統計データで確認される通りです。労働力確保と限られた労働時間の活かし方は経営戦略に大きく影響を与えており、各社の対応には-強い関心を持っています。

実際、労働時間の適正化によって、業務量の縮小を余儀なくされ、業績に影響が出ている企業も増加しています。これまでの成長モデルが継続できるかどうかは、今後の人材確保次第と回答する企業も増えています。顧客や社会のニーズがあるのにも関わらず、それに応えるための労働力が確保できずに事業機会を放棄せざるを得ないとすれば、社会的にも損失です。
とはいえ、顧客ニーズに応えることを優先するあまり、現場に無理を強いて品質低下や不正を招けば、社会に与えるマイナス影響は一段と大きくなり、ブランドや顧客基盤などの企業の非財務資本をも傷つけることにもなります。

こうした状況への対応策として、例えば情報ネットワークを使った労働環境の改善(自宅勤務やTV会議等を通じて勤務場所の制約を軽減)により、多様な人材が働ける環境を作り出し、労働力の維持・確保に努める企業があります。また、業務時間短縮やワークライフバランスなどの働き方改善と生産性改善を同時進行させ、業績拡大を加速させている企業も少なくありません。私の調査企業においても、省人化や業務標準化の観点でIT装備率を高めたり、負荷繁閑平準化により稼働率を上昇させる事など、各社の状況に応じて様々な方法で改善を成し遂げています。

内閣府の経済財政白書では、労働市場の問題が継続的に取り上げられています。最新の令和元年版では、労働市場の多様化に焦点を当てた分析を行っており、「多様な人材の増加は、生産性の向上、人手不足の解消等の効果が期待できる。但し、多様な人材の活躍に向けた取組みとセットで行うことが非常に重要である」という分析結果を公表しています。 まさに経営戦略として、多様な人材の能力を最大限に発揮させ、価値創造に繋げていくダイバーシティ経営が求められていると言えそうです。

日本の労働生産性(付加価値額÷労働投入量)は、時間当たりにおいても、一人当たりにおいても、他の主要先進国と比べて低いという調査結果があります。評価尺度の適切性に関して議論の余地はありますが、国内企業の取組み改善余地は大きいとの見方は出来るのではないでしょうか。人材の能力発揮という観点では、見えない企業価値変化を分析する一助として、「従業員満足度」や「経営と従業員の一体性」といった視点からの評価・分析は非常に重要だと考えています。

IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)では、企業に対し、長期的な価値創造を行う上で保持している6つの資本を把握する事を求めています。足元では、「人的資本」は既述の通り不足感がある一方、「財務資本」には余剰感のある企業が多いのではないでしょうか。
将来的に企業がこれらの「資本」を惹きつけるのか、はたまた「資本」が離れていくのかは、企業の魅力次第ですので、魅力度を高める経営の取組みが重要です。

魅力ある企業として価値創造に必要な資本を確保し続けることができるよう、社会からの要請を敏感に察知し、様々な資本を余剰感なく適切に活かす経営の取組みに期待したいです。資本市場の一翼を担う責任ある機関投資家として、真に魅力のある企業を選別して受益者の皆さまと投資先企業の共創に貢献できるよう、丁寧な調査・対話活動を続けていきたいと思います。

  • 6つの資本:財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本

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