アナリストの眼

ESGで生まれるビジネスチャンス

掲載日:2019年07月19日

アナリスト

投資調査室 野田 健介

私が担当する鉄・ガラス・製紙などの素材企業は、生産工程で大量の石炭・電気・燃料を使用しますが、パリ協定(※1)の目標達成に向けて製造工程の見直し、効率化を進めています。
CO2削減に向けた設備投資や資材調達の変更は短期的にはコスト上昇要因となり、業績にはネガティブに働きますが、構造変化の過程で新しく生まれる需要を取り込むことができれば、それは企業価値の向上に繋がります。

  1. 2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」で合意された協定。日本は同協定に基づいて2030年度のCO2排出量を2013年度の水準から26%削減することを目指す。

例えば、鉄の製造には鉄鉱石、石灰石、石炭などを用いる高炉法と、電気を用いて鉄スクラップ(鉄屑)をリサイクルする電炉法がありますが、現状、電炉法で生産した鉄鋼は高炉法で生産したものに比べ強度などで劣るため、主な用途は丸棒やH型鋼に限定されています。一方、高炉法はCO2排出量が多く、将来カーボンプライシング(※2)が適用されれば、電炉法の相対的なコスト競争力が高まります。電炉メーカー側は自動車向け鋼板などの製造技術を着実に高めており、コスト面での優位性が加われば新規顧客を獲得するチャンスに繋がるでしょう。

  1. CO2排出量に価格を付けること。

電炉法の生産拡大には原料となる鉄スクラップのリサイクルシステム確立が不可欠ですが、2030年代以降に中国が鉄スクラップの純輸出国に転じる可能性があります。鉄の平均的な耐用年数は30~40年と言われますが、中国は2000年代以降に粗鋼生産を急拡大させており、世界粗鋼生産の約半分を占める中国からの輸出が本格化すれば、鉄スクラップが供給過剰となり価格下落が予想されます。原料価格が下落すれば電炉法のコスト競争力が更に増すでしょう。

他製品の代替という観点では、自動車メーカーが燃費改善を目的に車両の軽量化ニーズを高めていますが、鉄や銅より比重の小さいアルミニウムの採用が拡大しています。受注獲得には強度向上、生産工程見直しによる製造コスト低下などが必要となりますが、技術力に優れた企業にとっては新規顧客獲得のチャンスとなります。実際、個別企業とのミーティングで、アルミニウムの販売を通して顧客網が広がったという話を聞くこともあり、変化をチャンスに変える企業は存在しています。

このように、CO2削減に向けた世の中の動きは業界構造変化に繋がっており、各企業のマネジメントがその変化をどう捉え、企業価値向上に向けてどのような布石を打ってくるのかに着目する必要があります。直近では「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言(※3)を受けて気候変動に絡むリスクやシナリオ分析を開示する企業も多く、それらの情報を丁寧に分析することが理解の一助となります。ESG(環境・社会・ガバナンス)が一般に認知されるようになって数年経ったこともあり、様々な場面で具体的な変化が見え始めました。

  1. 2017年6月に公表された、自主的な情報開示の在り方に関する提言。気候変動による財務への影響の開示などを求める。

今回はE(環境)の例を挙げましたが、アナリストとしては今後もESG対応に合わせた業界構造の変化や企業戦略の変化を早期に発見し、弊社ファンドのパフォーマンス向上に貢献してきたいと考えています。

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