アナリストの眼
プラスチック問題~ピンチをチャンスに変える力~
掲載日:2019年02月28日
- アナリスト
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投資調査室 坪井 暁
私達の生活には、プラスチック製品があふれています。
プラスチックは、軽くて丈夫、大量生産が可能という特徴を持ち、現代における私達の生活に多大な恩恵をもたらしている素材と言って間違いないでしょう。その一方で、最近はプラスチックに対する逆風が吹き始めています。世界では年間1500万トンの廃プラスチックが輸出されていますが、日本やアメリカとともに主要な輸出地域である欧州では、近年プラスチック削減に対する意識が高まっています。中国でも環境汚染防止を目的として、2017年12月に生活由来の廃プラスチックの輸入禁止を公表しました。
また、時期を同じくして、海洋に流出した廃プラスチックが環境破壊につながるという、海洋プラスチック問題も注目を集めました。ストローが鼻に刺さったウミガメや、漁網が絡まった海鳥の写真をご覧になった方も多いと思います。2050年には海洋プラスチック量が魚の量を上回るというショッキングな予測も発表されています。
このような状況の中、欧州委員会は2018年1月に「欧州プラスチック戦略」を策定、5月には具体的な指令案を発表しました。その後の2018年6月にカナダで開催されたG7シャルルボワサミットにおいては、国際的な枠組みである「海洋プラスチック憲章」が、カナダ及び欧州各国に承認されています。その中では、(1)2030年までに、100%のプラスチックがリユース(繰り返し使う)、リサイクル(再度資源として生かす)、または他の方法により回収可能となるようにすること、(2)2030年までに、プラスチック製品におけるリサイクル素材の割合を少なくとも50%増加させること、(3)2030年までに、プラスチック包装の少なくとも55%をリサイクル及びリユースし、2040年までに全てのプラスチックを100%回収すること、などが目標として定められました。
企業においても、プラスチック問題を意識した動きが見られます。大手コーヒーチェーンにおけるプラスチックストローの廃止、大手アパレルでのショッピングバッグの紙製への切り替えや有料化などは象徴的な動きと言えます。現時点では、プラスチック市場全体に対する影響は小さく、消費者に対するアピールが先行している印象は否めませんが、長期的にはより実効性を伴った動きへと広がってゆくことと思われます。
日本は、米国とともに海洋プラスチック憲章への署名を見送りましたが、問題が深刻化していることを受け止め、2019年6月に大阪で開催されるG20に向け、プラスチック資源循環戦略を策定する方針です。日本では長期間にわたり、プラスチックの適正処理や3R※に対する取り組みが積極的に進められてきました。その結果、日本におけるプラスチック包装容器廃棄物の有効利用率は86%(出所:プラスチック循環利用協会、2017年時点)と非常に高くなっています。今後は3Rに加え、再生可能資源(バイオマスプラスチック等)の使用による「リニューアブル」の取り組みを推進することや、日本の知見を世界各国と共有することにより、プラスチック問題の解決に積極的に貢献することが求められています。
- リデュース(ゴミの量を減らす)、リユース、リサイクル
私の担当する化学業界は、素材としてのプラスチックを供給する立場として、大きな責任を担っています。プラスチック使用量の削減方針や、海洋プラスチック報道の増加は業界にとってピンチと言えますが、個人的にはむしろチャンスの方に目を向けたいと思っています。具体的に注目しているのは、生分解性プラスチックの開発による新市場開拓や付加価値向上、リサイクルシステムの充実による競争力強化などです。今後はプラスチックに対する規制強化が進むと予想される中、海洋プラスチック問題の解決につながる生分解性プラスチックの魅力度は高まると思われますし、リサイクルシステムの充実により再生原料を有効利用することができれば、長期的には原料の安定調達や調達コストの低減につながります。日本の化学企業が長年培ってきた技術を、存分に活用できる局面が訪れていると思います。
ニッセイアセットでは、企業のESGに対する取り組みを、企業価値向上につながっているかどうかという視点から評価しています。プラスチック問題に対する化学企業の取り組みは、環境問題という社会課題の解決を通じて企業価値向上につながるものとして、大いに期待しています。今後もこのような考え方を企業と共有することで、長期的な企業価値向上に少しでも貢献できるよう、努力を続けたいと思っています。
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