アナリストの眼
懐疑論、楽観論、錯綜する半導体業界。
長期投資の視点
掲載日:2019年01月21日
- アナリスト
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投資調査室 醒井 周太
半導体業界の「スーパーサイクル」という言葉があります。
ちょうど1年ほど前によく取りざたされていたので、お聞きになったことがある方は多いかと思います。これまで5-6年周期で好不況を繰り返してきた半導体業界が、かつてない好調の波にのり、従来の循環の枠を超えた、新たな成長サイクル(=スーパーサイクル)に入ったとの強気の論調です。
2016年半ば以降、半導体(チップ)の中でもDRAMやNANDといったメモリは、SNS等における動画活用の広がりや、GAFA*と呼ばれる大手IT企業によるデーターセンター投資等の需要増大の影響から、価格が高騰しました。
- GAFA;グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェースブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社の頭文字を合わせた造語。世界的に個人データを圧倒的な規模で集めている巨大企業群。
同様に、その半導体を作る製造装置市場規模も、従来の300億ドル台から、2017年には一足飛びに500億ドル台へと大きく飛躍、対前年比+40%弱の成長を遂げるとともに、過去のピークを大幅に更新しています。
従来半導体製造装置業界は、拡大サイクルが終焉し、成熟化したものと受け止められていたため、これはマーケットに大きなサプライズをもたらし、関連銘柄は2016年から2017年にかけて、高いパフォーマンスを上げました。
しかしながら、2018年は一転、株価は下落・悪化の傾向を辿り、直近ではほぼ「スーパーサイクル論」が喧伝される前の水準にまで戻っています。
製造装置の現場を訪問する中でも、2017年当時は廊下にまで部品が溢れる程忙しく、工場の新設・拡張の案件も相次ぎ発表されていましたが、現状は一時の混乱・活況が嘘のように収まり、整然とした状況になっています。
そういった中、先の見通しについては見方が極めて交錯しています。弱気派はバブルが崩壊したと深刻視する一方で、強気派は一時的な調整局面に過ぎないと主張しています。
2019年の製造装置市場規模予想も、弱気派の300億ドル程度から500億ドル弱まで、大きくばらつく状況になっています。
スーパーサイクルは幻想だったのか?
我々は、その波は、中期の流れとしては、まだ継続していると考えています。しかしながら、長期投資ととらえた場合、スーパーサイクルの如何にかかわらず、結局のところ重要なのは、この変動の激しい業界における、個別企業の、変化への対応力の見極めであると考えています。
現在、我々が着目している事例としては、以下の例等が挙げられます。
たとえば、社内仮想通貨を活用した改善活動を全社ベースで継続的に実施し、地道に生産性を向上させている企業です。メディア等の報道によれば、定期的に改善活動のコンペ等を実施、環境の変化に伴い柔軟にやり方を変え、対応力を高めています。また、ある企業では、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)等を駆使した次世代のスマートファクトリー化(工場のIoT化)を模索しています。従来のような固定的な生産ラインではなく、データをベースにして、柔軟性を高めることが期待されます。
これらの事例は、我々が取り組んでいるESG(E:環境、S:社会、G:ガバナンス)の中で、G(ガバナンス)だけではなく、S(社会)の観点からも直結するケースが多くあります。具体的な切り口としては、風通しのよい企業風土・経営と従業員との一体性・ステークホルダー(従業員・顧客・取引先等)との適正な協力関係・現場を尊重する姿勢・社会問題への解決策等です。
変動の激しい時代だからこそ、ESG評価をベースに、長期投資をする上で、投資先企業が持つ変化への対応力等を注意深く観察・分析し、パフォーマンスに繋げて行きたいと考えております。
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