アナリストの眼

環境負荷低減への取り組みから見える非財務情報の開き

掲載日:2018年12月25日

アナリスト

投資調査室 小林 守伸

ここに来て日本企業の環境負荷低減に対する取り組みが積極化しています。具体的には、「SBT(Science Based Targets、企業版2℃目標)」の認定取得や「RE100(100%再生エネルギー導入目標)」への加盟など、国際的な枠組みでの意欲的な目標を設定する日本企業が増えています。

SBTはパリ協定(産業革命時期比の気温上昇を2℃未満にする)に沿って、企業が気候科学に基づいて設定した温室効果ガス削減目標のことで、国際的な環境団体であるSBTイニシアチブによって認定されます。
12月14日時点でSBTの認定を取得している企業は世界で162社、認定されるための要求水準は高く、企業にとっては意欲的な取り組みとなります。
日本企業では現在33社がSBTの認定を取得しています。年別に取得社数の内訳をみると、2015年が1社、2016年が1社、2017年が12社、2018年(12月14日時点)が19社と、ここに来て取得が急増しています。さらに、2年以内にSBT設定をコミットしている日本企業は33社あり、2年後には少なくても66社の日本企業がSBTの認定を取得していることになります。

RE100は事業運営を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げる企業が加盟する国際的なイニシアチブで、やはり、企業にとっては意欲的な取り組みとなります。RE100に加盟している企業は12月14日時点において世界で158社あり、そのうち日本企業は13社です。ちなみに、SBTの認定を取得していてRE100にも加盟している日本企業は6社あります。

環境負荷低減は企業のサスティナビリティ(持続可能性)において欠かすことのできない取り組みであると考えられ、SBTやRE100など国際的な枠組において高い目標を設定する日本企業が増えてきていることは好ましいことです。環境省も企業のSBT認定取得やRE100加盟を支援する施策を打ち出しています。
一方で、企業の温暖化ガス排出量の情報開示率は英国やフランスが9割超なのに対し日本は59%にとどまるとの調査結果を日本経済新聞が報じています。
SBTやRE100とまではいかないにしても温暖化ガス排出量の抑制に取り組んでいる企業は多いと思いますが、温暖化ガス排出量を開示していない日本企業は意外と多く、私が担当している企業のなかにも散見されます。SBTやRE100は国際的な枠組みの中で説明責任を明確にしなければなりません。このように日本企業内においても取り組み姿勢に開きが生じはじめています。全ての企業がSBTやRE100を目指すのは現実的ではありませんが、取り組んでいることをきちんと開示することは重要です。これは温暖化ガス排出量に限ったことではなく、また、「環境」に限ったことでもありません。企業が日頃取り組んでいる評価に値すべき非財務情報がきちんと開示されていないケースが意外に多いと感じています。

財務情報に関しては株式市場のニーズも分かり易く、それらを反映する努力を企業が積み重ねてきた結果、開示内容はかなり充実してきています。一方、非財務情報に関しては、株式市場のニーズが分かりにくいのも事実です。ただし、当たり前のことですが、開示していなければ前向きに評価されることはないと考えます。
当社では企業を担当しているアナリストが財務情報とともにESGファクターなどの非財務情報も含めた統合的な分析を行っています。こうした見地に立ち、統合報告書などの場での非財務情報の開示において、企業の皆様のお役に立てるよう微力ながらもお手伝いできればと考えています。

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