アナリストの眼

消費行動の変化と実店舗の意義

掲載日:2018年10月26日

アナリスト

投資調査室 村中 亮太

「アマゾン・エフェクト(アマゾン・ドット・コム社があらゆる企業・産業をのみ込むことを意味する造語)」に代表されるように、私の担当する小売業界では地殻変動の真っ只中にあります。変化の激しい米国ではアマゾン・ドット・コム社などの電子商取引(EC)企業の勢いに押される形で、トイザラス社やラジオシャック社などのような実店舗を中心としていた企業の破産や破綻が相次いでいます。本稿では日本の消費者の変化と今後の実店舗の意義について考察したいと思います。

日本でも総合スーパー(GMS)の不振や百貨店の店舗閉鎖、EC企業の台頭といった報道が相次いでいます。この変化の背景には何があるのでしょうか?

スマートフォンの普及により、時間や場所に関係なく様々な情報にアクセスが可能となりました。そして、今では電車の移動時間でもSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を閲覧したり、仕事のメールの返信などの作業にもあてられます。現代人は、これまでよりも『時間の使い方』の選択肢が増えていると捉える事ができます。その結果、時間は『限りある大切な資産』だという価値観に変化してきており、いかに時間を有効活用できるかという意識が芽生えてきています。実ビジネスにおいても、自分の無駄な時間を売買できる「タイムバンク」のようなサービスも登場しています。

このような中、消費者との接点が多い小売業に今後求められるのは、1)『時間の無駄をいかに少なくさせるか』、あるいは2)『時間価値をいかに高め、サービスを提供できるか』ということだと思います。

1)はECの台頭に繋がります。商品価値を事前に認識してもらい、注文に係る時間も短くできれば顧客満足度の向上に繋がります。EC経由で注文すればすぐに自宅に届きますし、宅配ボックスがあれば家にいる必要もありません。わざわざ店舗に出向く時間や労力を削減でき、時間を別の物事にあてられます。
他方、2)はいわゆる実店舗で体験を提供する「コト消費(体験に価値を見出す消費傾向)」に繋がります。最たる例がディズニーリゾートでしょう。夢と魔法の王国を標榜していることからわかるように普段の生活では決して味わえない体験を提供し来園者の時間価値を高めています。

それでは、小売業者はどのようにこの時代を生き抜けばよいのでしょうか?

成熟した社会ではものを買うだけでは満足感を得られることは少なくなっています。わざわざ店舗に足を運んだのであれば、知らないことを教えてくれるような丁寧な接客、新たな発見、ワクワク・ドキドキ感などを消費者は求めています。商品に加え、これらのサービスを付加してこそ顧客に非日常的な体験が提供でき、その顧客の時間価値が高められます。
好例として、ドンキホーテ社は実店舗しか展開していないものの、29期連続で増収増益を実現できていますが、同社でしか味わえない体験を顧客に提供できているのが強みになっています。
ドンキホーテ社の店舗に行かれた方はご存じかと思いますが、店内には商品が所狭しと陳列されており、欲しいものが決まっている消費者には非効率なレイアウトにも見受けられます。しかし、だからこそ予期せぬ商品との出会いや掘り出し物が発掘できるという楽しさがあり、これがワクワク・ドキドキ感に繋がっています。更に安さを兼ね備える事でECでは味わえないようなお買い得感を体感する事が出来ます。顧客体験を認識させることで、再び店舗に足を運ぶように人々を動機付けています。
このように顧客の時間価値向上に資するような体験を提供できる店舗であれば、今後いかに競争が厳しくなろうと生き残れると思います。一方満足感を消費者に与えられない企業は徐々に淘汰されていくでしょう。今後は人口減少も含めて小売業界には更なる変化が予想されます。この荒波を乗り切れる企業を見極める一つの要素として、いかに顧客の時間の有効活用するサービスを提供できているかが重要と考えつつ、今後の企業調査に取り組んで行きたいと思います。

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