アナリストの眼

大変革時代を迎える自動車業界

掲載日:2018年07月25日

アナリスト

投資調査室 加藤 真二

私が担当する輸送用機器セクターには「100年に1度の大変革」と言われるほどの変化が訪れようとしています。その変化は、いわゆる「CASE」と呼ばれるConnected、Autonomous、Shared、Electricの頭文字を取った造語が端的に表現しています。それぞれについて簡単にご紹介していきます。

Cは「つながるクルマ」です。車載通信機(DCM)の搭載により、走行データなどのビッグデータを収集・分析して新サービスを生みだせば、それらを収益源にしていける可能性がありますので、自動車業界にとってプラスの影響が期待できるかもしれません。ただ、ノウハウが豊富なIT企業などに主導権を握られてしまえば、自動車メーカーは単に製品を供給するだけの立場となってしまいますので、プラットフォーマーとしての立場をいかに確保していけるかが重要です。

Aは「自動運転」です。センシング技術(センサーを使用して様々な情報を計測・数値化する技術)の改良や人工知能の活用など各社が開発にしのぎを削っています。自動運転はクルマのあり方、利用形態を一変させてしまう可能性を秘めています。ただし、自動運転における安全性の確保にはしばし時間を要するものと思われます。

Sは「シェアリング」です。米国ではライドシェアサービスの普及が進んでいます。私も米国を訪れた際に利用しましたが、待ち時間もほとんどなく、大変便利であると実感しました。日本でもカーシェアの利用が増加傾向にあります。シェアリングによって保有から共有へとシフトすることで一般的には自動車の販売台数を減少させ、マイナスの影響があると捉えられていますが、一方で、これまで低かった自家用車の稼働率が高まることで自動車の買い替えサイクルが短縮化、販売台数は減少しない可能性もあると考えています。

Eは「電動化」です。2017年は各国政府主導で電気自動車に注目が集まりました。航続距離、充電時間、インフラ整備などまだまだ課題はあるものの、中国や欧州での普及の可能性が高まったと言えるでしょう。電気自動車自体は原価が嵩み限界利益率が悪化する要因になり、自動車業界にとっては決してプラスとは言えませんが、だからといって販売シェアを落とすわけにはいきません。日本の自動車メーカーも、電気自動車に対する取組みの説明の機会が増えるなど、少しずつ将来像を示そうとしています。

電気自動車では電子制御が増えるため自動運転との相性が良いなど、これらはいずれも強い関係性を持ちながら同時に進んでいます。自動車業界にとってはシェア低下を招く恐れがある大きな問題です。そのため同業他社や異業種のM&Aや提携の動きが活発になっています。

変化の時代に企業に必要とされることは何でしょうか?
同業他社との競争、技術・規制の変化など外部環境の変化により、実行していた戦略が有効性を失うことも考えられるでしょう。このため、例えば小さな組織への転換を図ったり、権限移譲を進めたりすることによって意思決定の迅速化を図り、戦略を機動的に修正していく必要があると思います。また、強いリーダーシップを持った経営者が組織を主導することも有効でしょう。従業員満足度を高め、経営陣と従業員が一体となって戦略を実行し、様々なバックグラウンドを持った人材を揃え、ダイバーシティに富んだ組織を作ることなども必要ではないでしょうか。これらはまさにESG評価の根幹をなすものであり、企業の長期分析を行う上で、このような社会(S)やガバナンス(G)の視点が欠かせません。変化の大きい時代だからこそこのような視点を忘れずに、これからもアナリストとして、責任ある投資家として、お客様に貢献していきたいと考えています。

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