アナリストの眼

不動産セクターからみる働き方と暮らし方改革

掲載日:2018年02月20日

アナリスト

投資調査室 木村 嘉明

「働き方改革」というキーワードが新聞やテレビで取り上げられ始めてからどれくらい経つでしょうか。足元では、官・民で様々な施策が表明され、「働きやすい社会」の実現に向けた取り組みが本格化しつつあります。こうした流れのなかで、私の担当する不動産セクターでも変化が現れてきていると感じています。本稿では、これらの変化についていくつかの事例を紹介していこうと思います。

企業は、長時間労働を抑制し、限られた時間のなかでも成果を出すことのできる生産性の高い組織作りに注力しています。大企業の中には、関連グループ企業も含めて1つのオフィスビルに集約し、業務執行のスピードアップ・効率化を図る動きもみられています。また、オフィスワーカー個人の労働生産性を高めるという観点で、1人当たりの執務スペースを広げたり、カフェスペースなどの共用部を充実させる例もみられます。今後、東京の各都市で大手デベロッパーによる大規模再開発計画が竣工していきますが、開発されるオフィスビルはこうしたニーズを捉えた高いスペックを有しています。

オフィスの集約とは逆のベクトルで、場所に縛られない働き方の実現を模索する動きもあります。例えば、三井不動産の「WORKSTYLING」のようにシェアオフィスを都心の主要エリアに展開し、自社の保有するオフィスビルに入居するテナント企業に、サテライトオフィスとして時間単位で貸し出すといった、既存のオフィス賃貸の枠組みに捉われない事業も出てきています。こうした動きが拡大することで、育児・介護などを担いながらでもキャリアを継続できる社会の実現が期待されます。

働き方に多様性が広がるなか、個人の住まいに対する選択にも変化が生じています。時短勤務などの制度を活用し、出産後も仕事を続ける女性が増えてきたことから、共働き世帯の数は増加傾向にあります。家事や育児に忙しい共働き世帯は時短に対する強いニーズを持っていることから、住まいについても通勤利便性の高い都心の分譲マンションを選ぶケースが増えてきています。こうした旺盛な需要を背景に東京都心のマンション価格は高止まりの状況にありますが、そのような状況下でも、徒歩圏にスーパーや学校がある生活利便性の高い物件や、クリニックや保育所を併設する物件は良好な売れ行きとなっています。

今後、日本が労働人口の減少していくなか持続的な成長を実現していくには、多様性のある働き方を許容し、生産性の高い働き方を可能とする社会的な基盤が整備されていく必要があるように感じます。こうした観点で不動産デベロッパーの果たす社会的な役割に目を向けながら、今後のリサーチに取り組んで行きたいと思います。

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