アナリストの眼

有機農業に学ぶ - ビジネスエコシステム構築のヒント -

掲載日:2018年01月23日

アナリスト

投資調査室 峯嶋 利隆

先日、大手外食チェーンが運営する千葉の有機農場で開催された収穫体験ツアーに家族で参加してきました。ツアーの最後で、その日収穫した野菜で作られた料理を頂きながら、右脳では「ああ、やっぱりとれたての有機野菜は美味しいなぁ」と感じつつ、株式アナリストとしての左脳では「有機農業には持続可能なビジネスエコシステムを構築する際のヒントが多く隠されているなあ」などということも感じていました。

有機農業とは、簡単にいうと化学肥料や農薬等を使わない農業のことです。有機農業は、農薬や化学肥料を用いる慣行農業と比べると、(少なくとも短期的には)非効率で、結果的にそこでの生産物は値段が高くなりがちという(消費者目線での)デメリットが指摘されます。他方で、有機農業には生産物の品質が高く(安全かつ美味で、栄養価も高い)、環境負荷が低い(持続可能性が高い)というメリットがあります。当稿ではあまり専門的領域には立ち入らず、この有機農業のメリットの裏側に隠されているビジネスエコシステム構築のヒントを探ってみたいと思います。私が考えるキーワードは、「多様性」と「持続可能性」の2つです。

キーワード(1):多様性(ダイバーシティ)

まずは、堆肥作りの段階です。有機農業では化学肥料を使わない代わりに「多様」な微生物の力を借ります。そこでは、納豆菌、乳酸菌、酵母菌など日頃から健康によいイメージのある菌だけでなく、普段あまり良いイメージのないカビ(糸状菌)なども堆肥の一次発酵段階で活躍するそうです。そうした多様な微生物が、自然生態系のベース部分を支える分解者として活躍し、良質な堆肥が作られるのです。

次に、栽培の段階です。有機農業においては農薬を使えませんので、害虫問題なども「多様性」の発想で解決しようとします。例えば、多くの昆虫が好んで食べるアブラナ科の野菜を栽培するときには、昆虫がつきにくいキク科の野菜を同じ畑で栽培するというような工夫がなされます。今回のツアーで訪れた農場では、アブラナ科のブロッコリーとキク科のレタスを同じ畑で育てていました。

キーワード(2):持続可能性(サステナビリティ)

有機農業の単位当たりのコストは、慣行農業と比べるとどうしても高くつきます。短期視点でそのコストを回収しようとすると、高く売れる野菜ばかりを連続して栽培したくなるかもしれません。しかし、実際にはそういう訳にはいきません。化学肥料や農薬に頼れない有機農業において、同じ畑で特定の作物を繰り返し栽培すると、それによって堆肥中の栄養分や生態系が偏り、「連作障害」が生じるからです。そこで、目先の利益ではなく生態系の持続可能性を念頭においた長期視点での工夫が必要となります。例えば、同じ畑で時期をずらして異なる作物を栽培する「輪作」などがそれに当たります。今回のツアーで訪れた農場では、良質な堆肥を維持するために空気中の窒素を地中に戻す働きがあるマメ科植物を間に挟んだ輪作をしていました。

上で挙げた2つのキーワードは、企業経営においても重要な意味を持ちます。経営陣や従業員の「多様性」に配慮した組織作りをしている企業は、環境変化への対応で強みを発揮するでしょう。また、様々なステークホルダーとのwin-winの関係作りに配慮できる企業は業績の「持続可能性」が強みとなるでしょう。ステークホルダーの利益に適う商品やサービスの提供を通じ、自社も成長するという、循環型のビジネスモデルを構築できれば、企業外部に大きな歪みをもたらすことなく、生態系全体を無理なく持続的に成長させられると思います。

我々は、そのような企業の長期戦略をしっかりサポートできる株式投資家であり続けたいと思います。例えば、企業が環境変化への対応力をつけるためにダイバーシティ推進に取り組んだとしても、その成果はすぐにはあらわれないものです。その場合でも、それがゴーイングコンサーンとしての企業価値を高める取組であるならば、投資評価の引き上げを躊躇しない、そのような心構えで企業との対話を含めたリサーチ活動に取り組んでいきたいと考えています。

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