アナリストの眼

持続可能な社会への対応力

掲載日:2017年10月16日

アナリスト

投資調査室 黒木 文明

航続可能距離を伸ばした電気自動車(EV)は、社会の持続可能性を高めることができるのか。EVを巡る国や企業の動きが加速しています。
イギリスやフランスのようにガソリンやディーゼルからの脱却を示した国、完成車メーカーの投入モデル数や販売台数目標の設定、技術開発に関するメーカー間での提携、電機メーカーなど異業種企業の参入など、関連したニュースが毎日のように報道され、株式市場でも話題に事欠きません。私が担当している素材や電力業界とも密接な関係がありますし、環境問題に端を発した急加速ぶりに感じるところもあり、注目しています。

昨今のトレンドのままEVが環境対策車の主流になるかどうかは予断を許しません。とはいえ、環境問題への関心が世界的に高まる中、各国や企業にも責任ある行動が求められています。パリ協定で目指す長期気温目標を達成するためのCO2排出量削減には、これまでの延長にとどまらない踏み込んだ対策が必要です。こうした中、自動車では内燃機関のもとでの燃費改善から、ゼロエミッション(排気ガスをまったく出さない)車が主流の時代へと、枠組みのシフトチェンジが現実味を帯びつつあります。

規模が大きく裾野の広い自動車産業ですから、電池やモータなどEVに不可欠な部材や技術を持った会社にとって、この変化は大きなビジネスチャンスです。また異業種参入が進めば、商慣習によって適正利潤を得にくかった状況が変わる可能性もあります。大きな構造変化をうまく捉え、必要であれば資本市場も活用して、チャンスをものにしてほしいものです。
他方、100年以上の歴史がある内燃機関を積まない自動車が主流になるとすれば、周辺産業への影響は小さくありません。事業領域によっては、磨いてきた技術や投資してきた生産設備を活用することができなくなり、企業の存続すら脅かされかねません。このことは、排ガス規制対応やエンジンの燃費向上策などで環境問題軽減に大きく貢献してきた企業も例外ではありません。
これまで問題解決を主導してきた先進技術が埋もれてしまうとすれば残念ですが、持続可能な社会に向けて、それだけ事態が深刻であることを象徴しているようにも思います。今日明日で状況が一変するわけではないだけに、構造変化を見据えた経営資源の配分などで、各社の対応力が問われることになりそうです。

もちろん自動車の周辺産業に限ったことではなく、日本で直接のCO2排出量最大部門のエネルギー転換部門(発電所など)や、産業部門(工場など)でも状況は同じです。例えば、日本の石炭火力発電所は世界的にも効率が高く、更なる高効率な技術開発や低効率な設備からの置き換えも進めており、このことはコスト面でも環境面でも優位性を持つものとして高く評価されて然るべきです。しかし世界の潮流は、高効率化の追求から脱炭素へと、異なるステージを見据えているようにも思われます。
世界の潮流に迎合することが必ずしもよいとは思いませんが、地球温暖化問題にとどまらず、食糧、平等、エネルギーなど社会に山積する課題を解決するためには、既存の枠組に囚われない転換を迫られる局面が今後色々とありそうです。せっかく持続可能な社会を目指しても、活動を支える企業がそれに適合できなければ、実効性は乏しいものになります。企業には持続可能な社会への対応力が求められているのではないでしょうか。

長期投資をする上で、投資先企業が持つ変化への対応力や持続可能性は重要な評価要素です。その評価を行う際の切り口は、明確な企業理念、コンプライアンス意識の高さ、風通しのよい企業風土、多様な価値観を許容するダイバーシティ、経営者の思いと実行力、現場を尊重する姿勢、ステークホルダーとの適正な関係、外部者による客観的なモニタリングなど様々です。アナリストとして、世界の潮流、企業が置かれた事業環境変化のスピードとマグニチュードに対する感度を高めると同時に、変化に対する企業の対応力や持続可能性を見極める眼力を養い、責任ある投資行動に努めたいと思います。

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