アナリストの眼

企業における研究開発の重要性

掲載日:2017年08月24日

アナリスト

投資調査室 坪井 暁

私が担当する化学セクターに属する企業は、私たちの生活に必要不可欠な様々な製品を生み出しています。今、私の机の上をざっと見渡しても、ペットボトルやコンビニの袋、スマホやパソコンなど、化学製品なしでは作れないものがいくつも目に入ってきます。その他にも、ビルや住宅の内外装材、自動車部品や航空機・宇宙ロケットの機体に至るまで、化学製品はありとあらゆる用途に使われています。そしてそれらの製品は、企業が長年に渡る研究開発の積み重ねにより生み出してきたものです。私たち人類の歴史を振り返っても、研究開発の成果として生み出されたイノベーションが新しい世界を創造し、生活水準の向上をもたらしてきたと言えるでしょう。

企業の経営戦略にとって、研究開発は非常に重要です。企業が世の中に送り出す製品は、当初は新製品として高い付加価値を認められますが、やがて陳腐化し価値を失ってしまいます。また、ライバル企業がより魅力的な製品を開発すれば、市場でのシェアを奪われ、再投資に必要な利益を得られなくなってしまいます。企業が長期的に競争力を維持し、企業価値を向上させてゆくためには、継続的に付加価値の高い製品やサービスを提供し、顧客や社会から必要とされ続ける必要があります。そのため、企業は独自に研究所を設置し、積極的に人員を採用し研究開発の成果を競っているのです。

一口に研究開発と言っても、テーマや製品化までの期間によって位置づけが異なります。大まかに分けると、1)既存事業の発展、2)新規事業の育成、3)将来的なイノベーションの創造、となると思われます。このうち、1)に関しては比較的短期間で製品化されるものがありますが、2)や3)に関しては、研究開始から何十年も経ってようやく日の目を見るものや、ある用途向けでは失敗したものの別の用途で実用化されるものなどもあります。そういう意味では、粘り強く続けることに意味があるとも言えますが、一方で実用化の見込みがない研究を続けることは経営資源の無駄使いとなり得るため、研究テーマに対する「目利き」が重要な要素となります。また、研究開発の進め方に関しては、a)「プロダクトアウト(作り手の方針を優先する方法)」とb)「マーケットイン(顧客ニーズを優先する方法)」に大別されますが、どちらを重視すれば研究開発の成果がより多く得られるかを判断することも重要となります。最近では、自社に足りない技術を補完し研究開発を効率的に行うため、顧客や他の研究機関、また競合他社とも共同で研究開発を行う「オープンイノベーション」という活動も増加しつつあります。企業が競争力を維持し、長期にわたり成長を継続するために、どのような形で研究開発を進めていくかということは、経営者の重要な経営判断のひとつであり、企業の戦略の特徴が出てくるとも言えるでしょう。

しかし、実際に企業がどのような研究開発を行っているかを、私たち外部の人間が具体的に知ることは難しいのが実情です。ただ、最近では研究所の見学会や、研究開発に関する説明会を開催する企業も増えてきました。そのような場において、実際に研究開発の現場に入り、担当者の方々から直接お話を伺うことは、理解を深めるための非常に良い機会です。特に、レベルの高い研究開発を行うための環境は整っているか、研究開発人員はどのようにモチベーションを維持しているか、研究所の活動内容と企業の経営戦略にズレはないか、などといった点は現場でないと実感できない重要なポイントです。実際に、先日、ある企業の研究所を見学する機会がありましたが、研究員の方々が活き活きとした表情で研究に打ち込む姿や、自信に満ち溢れた口調で研究の成果を説明する姿を目の当たりにし、その企業の研究開発活動に対する理解を深めることができました。

私たちアナリストの仕事は、財務情報だけでなく非財務情報についても、長期的な視点から企業と対話し、企業価値向上プロセスについて共に考えてゆくことだと思っています。研究開発についても、企業が競争力を維持し、長期にわたり成長を継続するために重要であるという認識を共有した上で対話を進めることが必要です。例えば景気や事業環境の影響により短期業績が悪化した場合でも、短期的な利益を捻出するために研究開発費の削減を求めるのではなく、長期的視点に基づいて研究開発の継続を促すことも、私たちアナリストにとって必要な行動でしょう。長期的な企業価値向上に少しでも貢献し、機関投資家として責任ある投資行動の一端を担うため、今後も努力を続けたいと思います。

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