アナリストの眼

人手不足を乗り切る企業

掲載日:2017年07月25日

アナリスト

投資調査室 岩尾 光恭

連日、日経新聞等主要各紙でヤマト運輸の記事が取り上げられています。なぜ、これ程までに注目されるのでしょうか。人手不足という大きな社会構造変化への業界トップとしての対応のあり方が世に問われています。

有効求人倍率は2012年12月の0.83倍から、2017年4月には1.48倍と大きく改善し、バブル期のピークをも上回りました。言うまでもなく、アベノミクス開始以来の企業業績回復に伴う雇用環境の改善が背景にあります。

ヤマト運輸は「顧客の利便性追求による豊かな社会実現への貢献」を企業理念に掲げていますが、(1) BtoC(企業対消費者間取引)の小口商品配送量の急激な増加と、(2) 人手不足による人件費の想定以上の上昇により、サービスクオリティ維持が困難な状況に直面しました。その対応策として、“24時間以内配送の中止”などデリバリー事業の構造改革に取り組んでおり、事業環境変化に対し、企業として大きな転換点に差し掛かっています。

人手不足対策として、以下のポイントに注目しています。

  • ワークライフバランス担保・人材育成体制強化などによる労働環境の優位性から採用競争力を向上させる
  • 業務効率・システム化により一人あたりの労働生産性を向上させる
  • 提供している製品・サービスの値上げで人件費増加を価格転嫁する

アナリストとしてESGの観点から、企業におけるこれらの対策の実現性を調査することが大切と考えています。社会(S)の視点では、(1) 価格転嫁を可能とする社会的付加価値を持った製品・サービスの提供やステークホルダーとの関係性と、(2) 魅力的な労働環境の源泉となる経営陣と従業員の一体性に着目しています。ガバナンス(G)の視点では、(1) 社会構造変化を企業価値拡大につなげられる経営戦略の柔軟性・妥当性と、(2) 執行力・それを支えるガバナンス体制を重要視します。

先日、ご来社いただいたある企業では、業務の改善案を現場社員からアンケート形式で吸い上げていました。すべてのアイデアと提案に対して、マネージメント層として回答(改善できない場合は理由を添えて)しており、地道ながらも中長期的な企業価値向上を果たせる施策として評価しています。人手不足という社会構造変化をどのように乗り切りチャンスに変えていくのか、今後も各企業の対応から目が離せません。

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