アナリストの眼

海外取材は、非財務情報を得る絶好の機会

掲載日:2016年07月29日

アナリスト

投資調査室 堀井 章

先日、海外出張に行き、担当企業の海外拠点を取材する機会に恵まれました。アナリストにとって海外拠点含めて、企業内の多くの方々にお会いできることは、当該企業の「非財務情報」の収集・分析を行う貴重な機会であり、企業の本質を理解する為には必要不可欠なプロセスだと捉えております。

一般的に、企業調査においてアナリストが接する情報は、(1)調査対象企業に関する情報と、(2)調査対象企業に直接関連しない情報(周辺情報)に大別されます。(2)には、顧客・市場に関連する情報や競合企業に関連する情報等が含まれます。
そして、(1)の調査対象企業に関する情報は、(A) 財務情報と(B) 非財務情報の二つに分ける事ができます。
つまり、アナリストが入手する情報は以下の通り3つにわけることができます。

(1)-(A) 企業の財務情報
(1)-(B) 企業の非財務情報
(2)企業の周辺情報(市場、競合等)

(1)-(A)は、決算短信等の資料で入手可能です。(2)については、対象企業への取材に加えて、競合企業、顧客、業界専門家へのヒアリング、統計データ等も利用します。また、「その業界に詳しい人」に聞くことにより、ある程度の理解は可能です。
一方で、(1)-(B)については、アニュアルレポートやCSR関連資料等から入手できる情報もありますが、企業内部の様々な方の「生のお話」を聞く事でしか、理解を深めることは困難ではないかと思います。

アナリストの仕事は、中長期的な業績(キャッシュフロー)予想を行い、そこから企業価値を算出し、投資判断を行うことです。中長期の業績予想を行うにあたり、(1)~(2)まで幅広い情報を収集し、整理し、分析したうえで、論理的な結論を導き出す必要があります。

10年近くアナリストを担当する中で、(1)-(B)の非財務情報が最も入手が難しく、また分析の難易度も高いと感じています。非財務情報は、財務情報以外の全ての情報を指し、企業理念、経営戦略、ガバナンス体制、組織体制、組織カルチャー、人材育成、サプライヤー等の各種ステークホルダーとの関係性など、あらゆる情報を含み、多くはESG(環境・社会・ガバナンス)に関連します。

人に例えると、財務情報は「成績表」のように、ある程度客観的なものだと言えますが、非財務情報は性格、ビジョン、行動特性、コンピテンシーのようなものを含み、もともと曖昧な側面があります。個々に見れば曖昧な情報を、整理、統合することで、企業の「内面」を少しでも理解することが、非財務情報の分析の本質だと考えます。そして、その企業の「内面」を理解してはじめて、企業の長期業績予想に対する確信度を持つことが可能となります。

非財務情報を収集する方法は、通常は役員やIR・CSR部門との継続的なコミュニケーションになりますが、工場、R&D部門、海外現地法人等での取材は、理解を深める大きなチャンスです。

特に、海外成長を目指している企業の場合、海外事業における非財務情報は非常に重要になります。例えば、多くの企業で「人材」は競争力の源泉ですので、海外拠点における人材採用、育成、報酬、その他の動機づけ、企業理念の定着など、幅広く取材します。また、海外生産拠点における安定操業や継続的コストダウンには、「地場のサプライヤーとの良好な関係」が不可欠であるため、取材の重要なポイントになります。

先日、海外出張に行った際にも、ある企業の海外拠点における「企業理念の浸透」、「磐石な組織体制」、「積極的な人材活用の状況」、「サプライヤーや地元社会との良好な関係」、が確認でき、その企業の持続的な成長に対する確信度が高まりました。

アナリストの仕事は、中長期の業績予想を通じて企業価値評価を行い、投資判断を行うことと述べましたが、短期的な業績変動に惑わされないためにも、企業の「内面」をしっかり理解する努力を続けていきたいと思います。

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