アナリストの眼

Climate change:気候変動-変革を迫られる企業経営

掲載日:2014年12月02日

アナリスト

投資調査室 井口 譲二

、グローバルで最も話題になっているニュースは何でしょうか?ウクライナ問題、グローバル景気の減速など、様々な事柄がありますが、そのひとつに異常気象が含まれることは間違いありません。最近の米国での季節外れの大雪、フィリピンへの超大型台風、英国での数百年ぶりの大洪水など、いくつもの事例を挙げることができます。

この異常気象は一時的なものではなく、構造的なものであり、ますますその異常の度合が高まる、という見方があります。“Climate change(気候変動)”です。“Climate change” は、海面上昇による高潮の発生・低地の水没(難民の発生)・穀物の不作などをもたらし、グローバルの経済・政治に大きな影響を及ぼします。シリア内戦やエジプトの政情不安も、その背後には、“Climate change”があった、といわれています。

気候変動に関する科学的な研究の収集を行う政府間機構である『気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)』から第5次報告書が発表されましたが、その内容は衝撃的です。レポートの中では、『大気中の温室効果ガス濃度増加から気候システムに対する人類の影響は明瞭である、、、人類による影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性は高い』という趣旨のことが書かれています。つまり、"Climate change"の原因は温室効果ガス(CO2)であり、人類の経済活動である、ということです。最悪の場合、2100年までには札幌が東京並み、東京が那覇並みの気温となる恐れがある、とも言われています。専門家の間では、この報告書で、気候変動に関する科学的な検証は終了、あとは世界のリーダがどう動くのかにかかっている、との意見もあります。

この"Climate change"の解決(緩和)に向け、国際的な枠組みの構築の役割を担うのが『(国連)気候変動枠組条約』です。『地球温暖化防止条約』とも呼ばれます。この枠組みに基づき、条約締約国会議 (Conference of the Parties、COP) が1995年以降、毎年開催されています。1997年に開催された第3回目の会議(COP3、京都会議)では、温室効果ガス削減の数値目標を定めた有名な『京都議定書』が採択されました。その内容は第一拘束期間(2008~2012)中に、温室ガス排出量を1990年比5%削減するというものでしたが、主要な排出国の米国の離脱や中国など発展途上国の経済発展に伴う排出量増加により、世界全体の排出量はむしろ増加しました。

『(国連)気候変動枠組条約』を巡る今後のスケジュールは、京都議定書で定められた第二拘束期間(2020年まで)の削減目標を各国で自主的に策定し2015年3月までに提示すること、ポスト京都議定書となる2020年以降の新たな枠組み合意を2015年中に行うことです。2015年末、パリで開催されるCOP21に向け、各国の様々な動きが予想されます。実際、大きく報道されましたが、中国で開催されたAPEC会合で、米中の首脳からも、新たな削減目標が提示されました。

このようなグローバルの環境意識の高まりは、企業経営・資産運用業界にも影響を与え始めています。2010年2月に、米国証券取引委員会(SEC)は、企業経営に環境要因が影響を及ぼす場合、年次報告書(10-k)で開示するよう『気候変動開示ガイダンス』を公表しました。海外大手公的年金基金などの機関投資家が連携して、企業に対して気候変動への戦略や温室効果ガス排出量の公表を求める『CDP:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト』も活発に活動しています。また、あるグローバル資源大手の取締役会議長に環境問題に精通し、環境団体との交渉を通じ、資源ビジネスをより円滑に進めることができる方が就任したと報道されました。このように、環境問題は、様々な形で企業経営・活動に影響を与えています。

今後、“Climate change”を軸に、グローバルの環境ルール、世間の環境に対する視線が厳しくなることが予想されます。アナリストとして、長期的な観点で、企業価値を分析する際には、決算数値などの財務情報だけでなく、非財務情報の分析が重要となります。まさに、この環境を巡る政治・経済のマクロ的な動きは、重要な非財務情報として企業分析をする際の必須の項目になる可能性があると考えております。

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