アナリストの眼

IT革命と無料経済化

掲載日:2014年10月01日

アナリスト

投資調査室 伊藤 琢

IT革命は20世紀末から始まったと言われていますが、この2010年代を後生の歴史家はどのように評価するでしょうか? 私はきっと、「大きな奔流の中の一断面」と評価するに違いないと思います。IT革命の真っただ中で生活している私たちにとっては、少しずつ起こっている変化になかなか気づきにくいことですが、IT革命前と現在とでは世界の経済や社会構造が、大きく変化したと感じています。

ロングテールの概念を提案し、全米でベストセラーとなった『フリー』の著者であるクリス・アンダーセンは、「20世紀はモノの経済である原子(アトム)経済であったが、21世紀は情報通信の経済であるビット(情報)経済へ移行した」と表現しました。私はこの革命的な変化を「無料経済化」と表現した方が、実感しやすいのではないかと思います。皆さんも、数年前に何万円もしていたソフトウェアが無料で配布され、新品で買ったパソコンなどのIT機器が、数年後に中古品として1/10程度の値段で売られていた、というような経験があると思います。価格が下落するデフレ経済というだけでなく、オンラインビジネスのコストは限りなくゼロに近づいたため、フリー(無料)からお金を生みだす道を探すことが新しいビジネスモデルとして注目され始めています。

これらの要因は、単にインターネットが普及しているからではなく、その裏に半導体や通信インフラの劇的な進化という、ハードウェアの技術革新が同時に起きていることが重要なポイントです。IT機器の性能を決めるCPUやメモリーなどの半導体は、2年も経てば同じ値段で数倍の処理能力に向上してきましたし、携帯電話でのデータの送受信の通信スピードも桁が変わるほどに早くなってきました。

同じ機能をもったソフトウェアやIT機器は時間とともに急速に価値が低下して、最終的には無料に限りなく近づき陳腐化してきました。IT革命の効果が気づきにくいなかでこれこそが、私たちが日々体験しているIT革命の目に見える効果と言ってよいでしょう。個人的な見解では、2000年以降先進国経済のインフレ率が低下しているのも、このような急速なITの進化による効率化(無料化)がデフレ圧力を生んでいるからであると考えています。

もちろん、消費者にとってはIT機器の性能がどんどん向上することは大変有難いことです。しかし、情報処理や情報のやり取りが効率化(無料化)されるということは、必ずしも良いことばかりではありません。IT革命は、私たちの仕事やライフスタイル、価値観まで変えるほどの影響力があるのです。

仕事の面では、今後ロボットやコンピューターに仕事が奪われるということがたくさん起こりそうです。産業革命以降、多くの単純な仕事が機械化によって淘汰されました。IT革命ではさらにハードウェアの高機能化だけでなくハードを操るソフトウェアや通信インフラの進化によって、言葉や国境の壁を越えて効率化の波は押し寄せています。当然仕事が変わることで、私たちのライフスタイルも変わりますし、最終的には価値観や人生観にまで影響を及ぼすことになっています。それくらい大きな変化がIT革命のなかで身の回りで起きています。

資本市場にかかわる仕事をしている私も、このような世の中の変化を見据えた上で企業とディスカッションをし、分析をしています。革命が起きる中では企業のポジショニングも予想以上のスピードで変化していくことでしょう。その中で次の勝ち組をしっかりと見定めることが、私が日々の業務で一番に意識をしていることです。

アナリストの眼一覧へ

「アナリストの眼」ご利用にあたっての留意点

当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。

【当資料に関する留意点】

  • 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
  • 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
  • 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
  • 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
  • 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。