アナリストの眼
「住まい」の欧米化なるか?
掲載日:2014年09月04日
- アナリスト
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投資調査室 小笠原 弘
リフォームブーム到来
私が担当する住設(住宅設備)セクターの企業業績から推定すると、2013年度の住宅リフォーム市場は大幅に拡大したと考えられます。これはアベノミクスによる景況感の回復や消費増税前の駆込み需要、消費者マインドの変化を背景にリフォーム需要が増大したことが要因と思われます。特に近年、住設セクターの企業はこぞってリフォーム事業の拡大戦略に注力しており、資本市場においてもリフォームへの関心は高まりつつあります。
中古住宅市場
では、リフォーム市場の土台の一つとなる中古住宅市場の現況はどうでしょうか。国内の全住宅流通量に占める中古住宅の流通シェアは約13.5%(平成20年)で、長い目で見るとシェアは拡大しつつありますが、欧米諸国の中古住宅の流通シェア(8~9割)と比べるとまだまだ低水準です。また、日本の住宅寿命は約30年と言われ、米国の100年、英国の140年などと比較するとかなり短く、資産価値も経年で大きく減少する傾向にあることも、中古住宅市場が伸び悩む要因になっています。加えて深刻なのは、少子高齢化の進行により住宅ストック数は世帯数を継続的に上回る状況で、空き家率は年々上昇傾向を辿り、社会問題に発展しています。
国を挙げてのリフォーム
前述の問題から今後は「良い住宅を作り、定期的に手入れ(リフォーム)して、長く使う」社会に移行することが課題となり、政府も「中古住宅・リフォームトータルプラン(平成24年3月)」の中で様々な施策を打ち出しています。プランにはリフォーム・中古住宅市場を2020年までに現在の倍の20兆円規模まで育成する目標が盛り込まれており、先日も現在検討されている政策として「中古住宅購入時にリフォーム費用を低利融資する新制度」、「耐震工事施工時の住宅事業者への税減免措置」などが新聞で報じられています。資金支援が充実して中古住宅を購入しやすくなり、今後もこうした政府の後押しは活発になっていくことが予想されます。
「住まい」の欧米化なるか?
日本のライフスタイルにおいて、「衣・食・住」は概ね「欧米化」が進んで参りました。ただし「住(住まい)」については「手入れして長く使う」という観点からはまだまだ発展途上にあり、現在の「新築購入」⇒「中古をリフォーム」への流れは大きな転換点かもしれません。 むろん前述の政策が企業価値に与える影響は各企業により差があり精査が必要で、リフォーム市場自体も景況感に左右されてきた過去の経緯は否定できません。ですが、住宅市場が抱える問題を解決するには住設セクターは欠かせない存在であり、将来「欧米化」が進み巨大化する可能性を秘めたマーケットの主役と考えることもできます。
企業を取り巻く環境は日々変化しており、時には大きな転換点を迎えます。アナリストとしてもいかなる市場環境の変化にも対応できるよう、長期的かつ柔軟な視野を持って調査活動に臨みたいと思う次第です。
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