アナリストの眼
米国IT企業の無議決権株式発行から考えるアナリストの使命
掲載日:2014年06月03日
- アナリスト
-
投資調査室 安達 浩
先日世界大手のインターネット企業が、議決権のないClass C株を新規発行し、Class A株の株主に与えました。発行後、A株との市場評価の差(=議決権の価値)はたった2%しかありません。もともと同社には非上場のClass B株が存在し、Class A株の権利の10倍の議決権が与えられていました。Class B株の9割以上を創業者が保有、Class A株と合わせて6割以上の議決権を創業メンバーが所有し経営にあたってきたため、あえて議決権なしの株式を発行したことに意外感がありました。
同社は常に大きなフリーキャッシュフローが発生するビジネス・モデルで、株式市場からの資金調達をするニーズはありません。しかし、米国では独創性が強く新規のビジネス・モデルを開拓するカリスマ経営者を多く輩出する土壌なので、投資家も議決権が創業メンバーで支配されているのを納得、同社の新規公開は成功しました。その後もFace Book等インターネット関連業界の新興成長企業が、同社の議決権方式を模倣して新規公開を果たしてきました。
ではもともと過半数を創業メンバーが支配しているのに、何故さらに議決権なしの株式を発行したのでしょうか?ここからは小職の推定も入りますが、ここ数年、少数の株式保有で企業経営への助言するアクティビストヘッジファンドが拡大していることが原因のようです。一昔前でしたら、アクティビスト投資は企業経営力に問題があり企業価値を損なっている企業に対して"プライベートエクィティ"なる投資家がその企業を買収・非公開化して経営支配をし、経営を正して再公開するものが主流でした。アクティビストヘッジファンドの台頭は企業経営者のガバナンスに対する考えを大きく変化させました。
では企業経営者はなぜ少数株式しか支配してないアクティビスト投資家を重視するのでしょうか?背景は機関投資家の存在です。機関投資家は企業価値拡大に繋がる企業戦略の改善を助言してくれるアクティビストヘッジファンドを支持し、アクィビストヘッジファンドの大きな応援団となったのです。もちろん、機関投資家もシビアに経営戦略を評価するので、アクティビストヘッジファンドが必ずしも適切な経営助言をしていないと判断すれば支持にはまわる訳ではありません(実際成長の鈍化した企業に過剰な配当と自社株買を求めたファンドは機関投資家の支持を得られませんでした)。アクティビスト投資家は、機関投資家というプロの支持を集める適切な経営助言が何か、実際に経営陣にどう受け入れられるか、という2つの極めて高いハードルを同時に満たすことを要求されることで、プロの中のプロとなっていったのです。同社のClass C株の新規発行はこうした背景があるのではないか、と推定しています。
私も機関投資家のアナリストの一人として、議決権有無に関わらず常に経営戦略をウォッチする立場にあります。ガバナンスに対する注目が集まるなか、経営戦略のウォッチだけではなく、いかに執行されているのかを一層注意深く分析判断し、投資先の企業の企業価値向上に少しでも貢献できるよう、企業経営の分析力向上に努めて参りたいと思っております。
アナリストの眼
関連記事
- 2025年02月20日号
- 機械学習の手法を活用しシクリカル株に投資(前編)
- 2025年01月23日号
- 成長性を評価する定量指標(1)
- 2025年01月17日号
- 【アナリストの眼】データが導くヘルスケアのイノベーション
- 2024年12月13日号
- 【アナリストの眼】食品企業の挑戦:インフレ継続をチャンスに変えられるか
- 2024年11月18日号
- 【アナリストの眼】KDDIがローソンと挑む「ソーシャル・インパクト」は、株主の期待に応えられるか?
「アナリストの眼」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。